フタバガキ科樹木の繁殖戦略の一端明らかに―数年に1度の大量の種子生産、自転車操業的に対応:高知大学/国際農林水産業研究センター
(2024年4月5日発表)
ランビル国立公園の低地熱帯雨林
(写真提供:高知大学 市栄 智明)
高知大学、国際農林水産業研究センター、香港浸会大学、マレーシアサラワク森林局などの国際共同チームは4月5日、主要な熱帯雨林であるフタバガキ科樹木の繁殖戦略の一端を明らかにしたと発表した。2~10年に1度の一斉開花・結実に用いられている炭水化物は、長い月日をかけて作り出され蓄積されたものではなく、繁殖が起きた年の光合成で作られたものだったことが判明したという。
不定期の、大量の種子生産に関する炭水化物資源の生産とその使われ方が明らかになったことから、ここ数十年で急激に劣化・消失の進んでいる東南アジア熱帯雨林の修復・再生に向けた研究の進展が期待されるという。
東南アジアの低地熱帯雨林では、2~10年に1度、様々な樹木が同調的に一斉に開花・結実する現象がみられる。特に優占樹種であるフタバガキ科の多くの樹木は一斉開花の年のみ繁殖し、その年には大量に結実する。
これまで、樹木はこのような大量開花・結実のために、長い時間をかけて炭水化物を樹体内に貯蔵し、それを利用して繁殖を行っていると考えられていた。しかし、この仮説は証明されていなかった。
国際研究チームは今回、この問題の解明に取り組んだ。マレーシア・ボルネオ島のランビル国立公園で起こった一斉開花に参加したフタバガキ科18種を対象に、種子に含まれる放射性炭素同位体を分析し、種子の炭水化物が光合成によっていつ作られたかを特定した。
その結果、意外なことにどの樹種も長い期間をかけて蓄積したものではなく、主に繁殖が起きた年の光合成で作られた炭水化物を利用していることが明らかになった。
つまり、フタバガキ科樹木は数年に1度の種子生産に対して「貯蓄型」ではなく、比較的新しい資源を使い「自転車操業型」の対応で、大量の種子生産に対応していることがわかった。
一斉開花の年には、フタバガキ科樹木の直径成長は普段に比べて低下することが報告されており、フタバガキ科樹木は炭水化物資源を成長から繁殖に回すことで、自転車操業型の資源利用を可能にしていると考えられるという。
今後、種子生産に対する窒素やリンなどの栄養素の貢献度がわかれば、一斉開花の発生時期や種子生産量の予測が可能になり、東南アジア熱帯雨林の適切な保全・管理技術の確立に繋がることが期待されるとしている。