iPS細胞で脳細胞―難治性脳疾患治療に一歩:理化学研究所ほか
(2024年4月16日発表)
理化学研究所と京都大学iPS細胞研究所は4月16日、脳が安定して働けるよう脳内環境を維持する細胞「アストロサイト」をiPS細胞から効率よく作ることに成功したと発表した。この成果を脳卒中や神経系の発達に関わる病気の原因になるアストロサイトの異常を自動検出する解析技術に応用できることも確認、脳卒中や神経系発達に関わる病気などの原因究明や治療法の開発に道をひらいた。
中枢神経は神経細胞とグリア細胞で構成されており、このうちグリア細胞は脳内で情報伝達を担う神経細胞を補佐する役割をしている。アストロサイトはこのグリア細胞の一種で神経細胞が効率よく働けるよう脳内環境を維持している。その異常は脳卒中や神経変性疾患、神経系の発達に関わる病気などの原因になる。
そこで研究グループは今回、このアストロサイトの異常に起因する病気の解明や治療薬の開発を目指してヒトiPS細胞を用いたアストロサイト作りに取り組んだ。その結果、均質なアストロサイト集団を作成することに成功した。
さらにこのアストロサイト集団を詳しく調べたところ、生体内で細胞同士の情報伝達に関わるさまざまなたんぱく質「サイトカイン」を分泌していることが分かった。また、アストロサイト集団の一部に傷をつけて細胞をはがすと、アストロサイトが正常に働くために必要な動き回る能力「遊走能(ゆうそうのう)」も評価できた。
アストロサイトの異常によって、てんかんや進行性の精神運動障害を起こす難治性神経疾患の一つ「アレキサンダー病」の患者由来のiPS細胞を含む複数の細胞株でも、これらの機能が評価できることも確認した。
これらの結果から、今回の成果はロボットなどを用いて膨大な数の化合物から有用なものを高効率で探し出すスクリーニング実験に使えるとして、「疾患モデルと病態解明研究や治療法の開発に貢献できる」と、研究グループは期待している。