メタン放出に従来の報告と異なる新説―世界の過去30年間の大気中濃度を解析:海洋研究開発機構/東北大学/気象研究所ほか
(2024年4月17日発表)
(国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東北大学などの国際共同研究グループは4月17日、地球温暖化ガスの一種メタンの放出においてこれまでの報告と異なる研究結果が得られたと発表した。過去30年間にわたる大気中のメタン濃度の推移を解析した結果得られたという。共同研究には海外からコロラド大学(米国)、ユトレヒト大学(オランダ)が参加した。この成果は同日付けの「Communications Earth & Environment」誌で公開された。
メタンにはCO₂(二酸化炭素)の25倍から28倍もの温室効果があるとされている。このため、国連の2021年のCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)では105の国がメタン放出削減に賛同した。しかし、今なお大気中への放出量は増えているとされ、NOAA(米国海洋大気局)は2021年の時点での世界の1年間のメタン総排出量が約6億4千万tだったと発表している。
だが、メタンの発生元である放出源がどう変わっているのかについての理解は、まだ限られている。このため、過去の大気中のメタン濃度の変動が主に化石燃料や農業からの放出によるものなのか、温暖化により湿地の微生物の活動が活発化したことに伴うメタン発酵によるものなのかの議論が続いていて、科学的な検証が求められている。
今回の研究では、メタンの放出源(石油、石炭、天然ガスなど)がそれぞれ特徴的な「同位体比」を持つことに着目し過去30年間にわたる世界の大気中のメタン濃度と炭素同位体比を解析した。
たとえば、質量数が16の酸素原子には、質量数18の酸素原子がある割合で混ざっている。そのような原子の存在比(含有量の比)のことを同位体比と呼ぶ。
今回過去30年間にわたる大気中のメタン濃度と、安定炭素同位体比(質量数12の炭素と質量数13の炭素の存在比)の変化を解析したところ、①1990年代から2000年代初頭に化石燃料起源のメタン放出が顕著に減少し、その後はほぼ一定だった、②1990年代から2010年代にかけて、微生物起源のメタン発生が顕著に増加、その大部分が廃棄物埋め立てと畜産によるものであることが分かった。
この結果は、これまでの1990年代から2010年代にかけて石油・天然ガス関連のメタン放出量が増加し、あるいは米国での頁岩層(けつがんそう)から出るシェールガス採掘に伴うメタン放出量の大きな増加もあった、とする既存の説とは大きく「異なる」と結論している。