小笠原諸島の植生変化―77年前の記録で解明:森林総合研究所ほか
(2024年5月16日発表)
森林総合研究所と(一社)日本森林技術協会、東京都立大学は5月16日、日本本土から約1,000km南に位置する小笠原諸島で過去77年間に植生がどのように変化したかを明らかにしたと発表した。植生は島の居住人口に大きく左右され、部分的にいったん植生変化が起きても残された山林地が広ければ、元の状態に回復しやすいことなどが分かった。今後の小笠原諸島での生態系の保全・再生に役立つという。
研究グループが用いたのは、昭和初期の1935年に記録された小笠原諸島の植生図。今回、この資料をもとに父島や母島、聟島(むこじま)など主要9島の記録を電子化して1979年と2012年の植生データと比較、過去77年間にどんな変化が起きたかを分析した。
その結果、小笠原諸島の最も北方に位置する聟島列島の聟島では、今は草原になっている場所がかつては乾燥低木林だったことが明らかになった。この変化は、第二次世界大戦末期に無人化した後、加速度的に繁殖・高密度化した外来種のノヤギによる食害が影響したと考えられるという。
一方、二千数百人の大半が居住する父島や母島では現在、トクサバモクマオウやアカギといった外来樹木の森林が広がっているが、かつてはシャリンバイやアカテツなどの乾性低木林やウドノキやモクタチバナなどが生育する湿性の森林だった。この変化は過去に人の手で森林が広く伐採された影響とみられるという。
今回の研究では、固有種が生息する山地林は部分的に一度他の植生に変化しても、残された山地林の面積が広ければ1935年時点の状態に回復しやすいことが分かった。その一方で、面積が小さいほど回復しないことも明らかになった。
今回の結果について、研究グループは「今後の小笠原諸島での生態系保全・再生活動の目標像を設定するための基礎資料になる」と話している。