チョウを4年でほぼメス化させてしまう細菌の働きを解明―生殖を歪める細菌が、チョウの絶滅や進化にどんな影響があるか:福井大学/千葉大学/農業・食品産業技術総合研究機構
(2024年5月21日発表)
交尾中のミナミキチョウ (写真提供:福井大学 宮田 真衣)
福井大学の宮田 真衣 助教と千葉大学の野村 昌史 教授、(国)農業・食品産業技術総合研究機構の陰山大輔 グループ長補佐らの研究チームは5月21日、石垣島のチョウの集団をメス化させる細菌ボルバキアの働きを解明したと発表した。わずか4年で90%以上のチョウ(ミナミキチョウ)をメス化させていた。
細菌ボルバキアは昆虫の種の約40%の組織内に生息しているといわれる。そのうちの一部は昆虫の生殖を様々な形で操作する。子のオスのみを殺す「オス殺し」や子を全てメスにする「メス化」などの現象が知られている。
細菌は寄生する生物(宿主、しゅくしゅ)の細胞外では生きられず、宿主の母から子に世代を超えて伝播し、父からは伝搬しない。宿主の生殖を操作して子をメスのみにするようになったと考えられている。
奄美大島以南に分布するミナミキチョウで、メス化を引き起こす細菌ボルバキアの系統の一つ「wFem」によってメス化が起きていることが知られていた。またオス殺しを起こすボルバキアによって野外の昆虫の比率がメスに偏っているとの報告も出されていた。
これらの報告では、その細菌が「いつ」「どこで」「どの昆虫種で」「どのくらいの速度で」起こるかの予想ができず、その過程を捉えるのは難しかった。
研究チームは「wFem保有率はやがて上昇するはず」との仮説を立て、2015年から石垣島でミナミキチョウ1,392匹を採取し、wFemの保有率と雌雄比率の観測を始めた。
その結果、2015年から2018年にかけてはオス・メス比がほぼ1:1であったものが、2019年からメスに偏り始め、2022年には93.1%がメスとなったのを突き止めた。
採取したチョウを持ち帰り、研究室でDNAの一部を増幅させるPCR法で調査した。2017年以降にwFemの保有率が上昇し、2022年にはメスの87%がwFemを保有していた。
さらに2019年に野外で採取したメスを飼育したところwFemを持っていたチョウでメス化が起きており、wFemが広がることで性比がメスに偏ったことが明らかになった。
今後は、たった4年で島中がメスばかりになったミナミキチョウの性比の異常が、どのくらい続くのかを調査する。リュウキュウムラサキ(チョウ)では、オス殺しのボルバキアが蔓延しメスに偏っていたのが、数年後にはオス・メスが1:1に回復したことが報告されている。ボルバキアによる生殖操作に対してリュウキュウムラサキが抵抗性を獲得したためだ。
果たしてミナミキチョウについてもそうした抵抗性が獲得できるのか、それとも逆に絶滅に向かうのか。今後の細菌と昆虫との攻防についての貴重な調査に入る。