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極端高温下での救急車の稼働予測 -熱中症多発で救急車の搬送が困難になる―熱中症リスクの低減や救急車の適正配置などが不可欠に:国立環境研究所

(2024年5月29日発表)

 (国)国立環境研究所は5月29日、東京都内で50年に1回発生するような極端高温下での救急車の稼働予測を推計し、発表した。対策として温室効果ガスの削減と熱中症リスクの低減の取り組みや救急車の適正配置が重要としている。

 2023年は世界的に観測史上最も暑い夏を記録した。今後、気候変動が進むとさらに暑くなり地球沸騰化の夏が増えるとみられる。日本も更なる高温の発生で甚大な熱中症の多発が懸念されている。

 熱中症による救急車要請や搬送を予測した報告はすでにあるが、要請の増加によって救急車搬送がどの程度対応できるかどうかの推計が必要となる。

 研究チームは、東京都で50年間に1回発生するような極端な高温の「50年気温」下で、熱中症患者を救急搬送できなくなる可能性を推計した。

 1985年から2014年を「基準年」にとり、「21世紀半ば」(2021年から2050年)、「21世紀後半」(2071年から2100年)の3期間に分けた。それぞれの50年気温は、各年の最も高い日最高気温を抽出し、気候変動による気温上昇が考慮できる算定方法を適用した。

 将来の社会経済の発展傾向を仮定した社会経済シナリオ(SSP)と、国連などが主導して作成した5つの気候モデルを使った。熱中症による救急車要請数は、日最高気温下で7歳から17歳、18歳から64歳、65歳以上の3つの年齢層別に分けて救急車要請数の予測モデルを開発した。

 この予測モデルに50年気温を入れて各期間の救急車要請数を出す。そこから救急搬送ピーク時(14時)の要請数を推定し、これに対応できる救急車の稼働率を調べた。

 その結果、熱中症による救急車稼働率は基準年が50%。社会経済モデルによって異なるが21世紀半ばは110%と200%、21世紀後半では135%と738%と予測された。

 21世紀の半ばや後半では、熱中症のみで救急車の稼働率が100%を超える救急搬送困難の事態が予想され、その傾向は気候変動が最も進む21世紀後半で顕著となる。

 救急車の要請は熱中症以外の患者もあるため現在でも救急搬送の困難な事態は起きている。将来はこの予測以上に発生が高まることが懸念される。

 こうした事態を回避するには、温室効果ガスの削減に向けた抜本的な取り組みとともに、熱中症リスクを低減するための取り組みや普段から救急車の適正利用を促すなどの取り組みが必要とされる。