蚊は腹八分を知っている―血中に吸血停止させる物質:理化学研究所ほか
(2024年6月21日発表)
蚊は腹八分を知っている。(国)理化学研究所と東京慈恵会医科大学は6月21日、腹いっぱいになる前に蚊が吸血行動をやめて自らの危険を回避していると発表した。吸血量が一定以上になると吸血行動をやめさせる物質が哺乳類の血液中にあることを突き止めた。蚊の媒介によって世界的に今も大きな被害が出ているマラリアや日本脳炎などの感染症対策に役立てられると期待している。
発見したのは、哺乳類の血液中に存在する「フィブリノペプチドA(FPA)」という物質。血液が固まるときに哺乳類の体内で作られるが、蚊の体内に一定量以上たまると蚊に吸血行動を止めさせる働きがあることも突き止めた。
研究の対象にしたのはヤブカの仲間で、熱帯・亜熱帯地域に広く生息するネッタイシマカ。激しい頭痛や発熱を引き起こすデング熱の原因となるデングウイルスなどを媒介し、公衆衛生上最も重要とされている。
研究ではまず、血液中に蚊の吸血を停止させる物質が含まれているかを検証する実験を試みた。マウスの血液と血液中に含まれ蚊の吸血行動を促進することが知られているアデノシン三リン酸(ATP)の合成溶液(ATP溶液)を用い、蚊の吸血行動を比較分析した。
ネッタイシマカを用いて実験をしたところ、マウスから直接吸血したときの方が、合成溶液を吸わせたときよりも摂取量が多くなることがわかった。このため血液中に吸血量が一定量になると吸血を抑制する何らかの物質が含まれていると研究グループは推測、血液を成分ごとに分けて詳しく解析した。
その結果、哺乳類の血液中にあるフィブリノペプチドAが、蚊の吸血行動を途中でやめさせていることがわかった。蚊が吸血に長い時間をかけると、血を吸われる人間や動物が気が付いてたたいたり追い払ったりする。こうした危険を避けるため、蚊は進化の過程で「腹八分」の仕組みを身に着けたと考えられそうだ。
研究グループは「人為的に吸血停止を誘導する手法の開発や、蚊が媒介する感染症制御への応用が期待できる」と話している。