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オリーブの希少成分「オレアセイン」の抗うつ効果を発見―神経炎症およびうつ病に与える影響を解析し解明:筑波大学ほか

(2024年6月21日発表)

 筑波大学と(国)産業技術総合研究所の共同研究グループは6月21日、オリーブに含まれる希少成分「オレアセイン」に、神経炎症モデルマウスのうつ行動を抑制する効果があることを見出したと発表した。今後ヒトでの効果を明らかにし、オレアセインを活性成分とする食品素材の開発を目指したいとしている。

 オレアセインは、強力な抗炎症作用を示すオリーブ由来の化合物「オレオカンタール」と類似の構造であることから、抗炎症活性が期待され、炎症から誘導されるうつ病に対して有望と考えられてきた。

 しかし、オレアセインは希少成分であり、その機能性に関する研究は遅れていた。研究グループは近年、このオレアセインを、オリーブ葉に豊富に含まれているオレウロペインというポリフェノールの一種から、固体触媒を用いて簡便に直接製造する技術を開発した。今回は、オレアセインが神経炎症およびうつ病に与える影響の解明を目指し、分子生物学的解明に取り組んだ。

 海馬と呼ばれる脳の部位で神経炎症と神経新生を制御している物質に、脳由来神経栄養因子(BDNF)と名付けられた神経ペプチドがある。BDNFは受容体TrkBと親和性が高く、この受容体を介して作用し、神経成熟や神経分化などに重要な役を果たしている。

 脳海馬におけるBDNFはうつの発症と関連しており、炎症によりBDNF発現量が著しく低下すると、うつを発症する。一方で、うつ病の予防・治療ではBDNF発現量が上昇するため、BDNF/TrkBシグナル伝達とうつ病との関連性が指摘されている。

 研究では、これらの現象や関係性などについて詳しく調べたところ、オレアセインは受容体TrkBを介してBDNF発現を誘導し、炎症性サイトカイン発現を抑制することで、うつ行動を抑制することが示唆された。また、マウスにおける研究では神経炎症誘導性うつに対するオレアセインの抑制効果が明らかになった。

 こうした効果は、脳内における神経栄養因子BDNFレベルの上昇および神経炎症の抑制によりもたらされることが示唆されたという。今後、オレアセインを活性成分とした食品素材の開発を視野に入れ、ヒト介入試験を行う予定としている。