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睡眠時のエネルギー消費―不眠治療薬で調節も:筑波大学

(2024年6月26日発表)

 筑波大学は6月26日、食欲や睡眠に関係する生理活性物質「オレキシン」が睡眠中に体内で消費するエネルギー量も調節していると発表した。オレキシンの働きを抑える薬剤は不眠症治療にも使われており、薬剤の選択によっては体内のエネルギー代謝にも影響を及ぼす可能性があるという。今回の成果は、将来的にこれらの薬剤の応用範囲の拡大にもつながると期待している。

 アミノ酸がペプチド結合と呼ばれる仕組みで短い鎖状につながった分子をペプチドと呼ぶが、オレキシンはその一つ。摂食行動や覚醒状態の調節に重要な役割を果たしている。ただ、これまでは体内でのエネルギー代謝の調節にオレキシンがどのような役割をはたしているかはよくわかっていなかった。

 ところが近年、体内でオレキシンの働きを抑える薬「スボレキサント」が不眠症治療薬として用いられるようになった。そのため、筑波大の徳山薫平名誉教授らはオレキシンが睡眠中や目覚めた直後に体内のエネルギー代謝にどのような影響を与えているかを調べた。健康な若い男性14人に20mgのスボレキサントを服用してもらい、睡眠中のエネルギー消費量と脳波を測定した。

 その結果、総睡眠時間に大きな変化はみられなかったものの、夢を見るなど脳が覚醒状態にあるレム睡眠が増加。一方、脳の眠りと言われるノンレム睡眠のうち、比較的浅い睡眠は減少していた。不眠症治療薬のスボレキサントを服用していた被験者では睡眠中の脂肪酸化が増え、その反応は目覚めた後も1時間にわたって続いたという。

 これらの結果から、研究チームは「オレキシンが脂肪酸化やたんぱく質分解の調節を通じて、エネルギー代謝に関係している」「今回の検討はスボレキサントによる睡眠とエネルギー代謝に及ぼす急性効果だが、慢性的な効果についても検討が必要」として、今後さらに検討を進めるという。