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筋肉形成のスイッチ役解明―筋量減弱症治療に道:筑波大学

(2024年7月12日発表)

 筑波大学は7月12日、運動不足や加齢に伴って低下する筋肉量がどんな仕組みで再生するのかを遺伝子レベルで解明したと発表した。マウスによる実験で筋肉細胞が増殖する際にスイッチ役として働く二種類の酵素を突き止め、これらを体内で作る遺伝子が欠けると筋肉の再生がうまく進まないことを確認した。加齢に伴って筋力が低下する筋量減弱症(サルコペニア)の治療薬開発などにつながると期待している。

 筋肉(骨格筋)は体重の約40%を占め身体活動に欠かせない重要な臓器。一方、筋肉は内分泌組織としても機能し、体の働きを安定的に維持する働きもしている。今回の研究では、この筋肉の素となる骨格筋幹細胞を筋肉細胞へと変化させる際に働く、二種類の酵素たんぱく質をマウスによる動物実験で突き止めた。

 さらに遺伝子工学的手法によって、これらの酵素を体内で作れないようにしたマウスを用いて詳しく分析したところ、二種類の酵素が両方とも体内で作れない場合には筋肉の再生が大幅に遅れることが分かった。一方で、これらのうち一種類の酵素だけを作れなくした場合には、筋肉再生に異常は見られないこともわかった。

 この結果から、これら二種類の酵素は体内での筋肉形成に不可欠である可能性が示唆された、と研究グループはみている。そこで今後、これら二種類の酵素が骨格筋幹細胞内でどのような分子と相互作用し、増殖中の骨格筋幹細胞を筋肉細胞へと分化させるのかを明らかにしたいとしている。

 今後の研究に関連して、研究グループは「通常は眠っている小さな単核の骨格筋幹細胞が、最終的に数百の核から構成される巨大な筋線維へと成熟していくメカニズムを解明できれば、現代日本で大きな社会問題となっているサルコペニアの予防・治療法の開発に貢献することも期待できる」と話している。