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都市化により花が咲かなくなることを発見―雑草の一種「スベリヒユ」の栽培で実証:国立環境研究所ほか

(2024年8月7日発表)

 (国)国立環境研究所と千葉大学の共同研究チームは8月7日、都市化の影響で花が咲かなくなってしまう植物があることを見つけたと発表した。「スべリヒユ」と呼ばれる雑草で発見したもので、農村部では黄色い花が咲くのに都市部では都市化の影響でその綺麗な花が咲かなくなることを見つけた。都市化は生物の多様性の喪失をもたらす要因として世界中が注目しているが、今回の実験結果は植物が都市化で受ける影響を研究する上で貴重な知見になるものと期待される。この研究成果は8月1日付で英国のオックスフォード大学出版局から刊行された学術誌「Annals of Botany」に掲載された。

 「スベリヒユ」は、世界中の温帯から熱帯にかけて広く生育し、日本でも各地で繁殖している雑草の一つ。

 そのスベリヒユがつける花には、綺麗な小さな黄色い花びらが開くタイプと、花びらが開かずにつぼみの状態で自家受粉する花の咲かないタイプの2タイプあることが知られている。前者を「開放花」、後者を「閉鎖花」といい、1つの個体(株)にはそのどちらか一方のタイプの花のみをつける。しかし、都市化によって生じる花の適応進化(周囲の環境に対応する変化)については、まだほとんど分かっていない。研究は、そのスベリヒユの2タイプの花が都市化という生育環境下でどのような影響を受けているのかを実際に栽培して解明しようと行った。

 栽培実験は、東京の都市部とその周辺地域の農村部に生育しているスベリヒユ計20集団から種子を採取して植え付け97の系統を作り出して自然光温室内で栽培を行った。

 すると、都市部で生育するスベリヒユの多くは閉鎖花をつけるタイプとなって、黄色い花びらの開放花をつける個体は僅(わず)か6%程度にとどまり、花がほぼ咲かなくなってしまうことが分かった。「その花は都市では咲かない」と研究チームは言っている。

 また、発芽してからつぼみができるまでの日数や果実ができるまでの日数が閉鎖花型の方が短くて早熟であることも分かった。

 こうしたことから研究チームは「閉鎖花型へと適応進化している可能性が示唆された」とし「都市化に伴って増加した乾燥・高温ストレスや攪乱(かくらん)などがその一因として考えられる」と指摘している。

スベリヒユの開放花(a)と閉鎖花(b)の写真。(a)の写真では黄色の花弁(花びら)が開いているのが分かる。(b)の赤矢印で示したのが閉鎖花。つぼみのように見えるが開放花のように花弁が開くことはない。この状態で自家受粉し、種子を生産する。©藤田知弘