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謎の多いアオウミウシを卵から成体まで実験室で育てる―世界初の飼育法の確立で水族館展示などの商業利用にも貢献:筑波大学

(2024年8月5日発表)

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ステージJ7の幼若体(アオウミウシ)©筑波大学

 筑波大学は8月5日、アオウミウシを卵から成体まで育てることに初めて成功したと発表した。孵化(ふか)したばかりの微小な幼生から成体まで、外部形態の変化を基に成長過程を9つのステージに分類した。謎に包まれていたアオウミウシの生態解明によって水族館展示などの商業利用にも役立つとみている。

 アオウミウシは巻貝の仲間で、貝殻が退化し消失した。日本で最もよく知られるウミウシの一種。全身が鮮やかな青に黄色の斑紋と、赤色の触覚、二次鰓(えら)をもつ。仲間のイロウミウシと共に小型だが青や赤などの鮮やかな色彩が水族館の人気者になっている。

 成長すると岩場などで海綿動物をエサにする。幼生は約0.1mmと小さいため、卵から成体までの成長過程の観察は難しく、実験室内で育てた例はなかった。

 筑波大学下田臨海実験センターでアオウミウシのエサとなる海面動物を特定し、実験室内で育てた成体が産卵した複数の卵塊を得た。

 産卵から6日で1つの卵の塊から数千個の浮遊幼生(ふゆうようせい)が孵化した。攪拌(かくはん)装置付きの容器でエサを与えながら飼育したところ約3週間で眼ができた。エサの海面動物を入れ詳細に観察を続けた。

 外見上の特徴から幼若体期はJ1からJ7までの7つのステージに変化し、成長した。

 主な変化としては、J2段階で外套(がいとう)膜腺と呼ばれる外敵から身を守るための化学物質の貯蔵組織が作られた。J3は外套膜に青と黄色の色素沈着がみられた。J6では触覚が紡錘形になり、J7では黄色の斑点が出現した。約6か月後には交接と産卵が確認され、成体になった。

 
(左)産卵の様子(中央の白色部分が卵塊)、(右)幼生(眼点の形成後の個体)©筑波大学

 

 この成果は、仲間のイロウミウシ科の発生学的研究にも役立つとみられる。いずれも水族館の人気者だけに、カラフルな展示利用などにも応用が期待される。