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他人の判断も予測―脳の意思決定回路を解明:理化学研究所

(2024年8月24日発表)

 意思決定の際には他人の判断も予測しながら決める。(国)理化学研究所は8月24日、このような神経活動が脳のどの部位で行われるかを解明したと発表した。他人の選択が自分の選択の良し悪しに影響を与えるような課題を作成、これに取り組んだ際の人間の脳活動を分析して突き止めた。社会性に関わる脳疾患の解明や、人工知能(AI)に社会的な知性を持たせる研究に役立つと期待している。

 理研は他人の選択が自分の選択の良し悪しに影響を与えるような意思決定課題を作成、20~28歳の男女48人に取り組んでもらった。課題に取り組む際の被験者の脳活動は、fMRI(機能的磁気共鳴画像測定)で画像化し詳しく解析した。

 その結果、他人がどのような選択をしたか、その確率を予測する脳活動は脳の左半球にあるアーモンド状の「扁桃体」と呼ばれる部位で行われていることが分かった。さらに意思決定する際には自分が受け取れる報酬量だけではなく、報酬を受け取れる確率も踏まえて判断するが、実験ではそうした最終的・主観的な価値判断が内側前頭前野(ないそくぜんとうぜんや)と呼ばれる意思決定に関わる脳の部位で行われていることも明らかになった。

 他人がどのような選択をするかを予測するとともに、それぞれの選択に基づいて自らの意思決定をする脳の部位は、後帯状皮質と右背外側前頭前野(みぎはいがいそくぜんとうぜんや)と呼ばれる部位に分化して行われることも、今回の実験で初めて明らかになった。

 最終的には、①他人がどんな選択をするかについて比較的確信をもって予測できるときは、扁桃体→後帯状皮質→内側前頭前野で主導される情報処理が促進される、②他人がどんな選択をするかの予測に確信が持てないときは、他人のなさそうな選択に基づく意思決定も勘案して扁桃体→右背外側前頭前野→内側前頭前野という脳神経回路の調整活動も高まる。今回の実験では、これらを統合して意思決定が行われていることが明らかになったという。

 理研は、今回の結果について「他者の選択を予測するのは私たちの日常の社会行動の根幹であり、その他者の選択の予測を踏まえて意思決定を行うことは、社会性を実現する脳機能の本質的な機能」だとして、今後、社会性に関わる脳疾患の解明や治療法の開発、社会的知性をAIに持たせる研究などに役立つとみている。