富士山・本栖湖の堆積物から長期間の黄砂の変動を解明―3,000年前に黄砂は一時減少、東アジアの気候変動と関連か:東京大学/秋田大学/産業技術総合研究所
(2024年9月11日発表)
東京大学と(国)産業技術総合研究所らの研究グループは9月11日、山梨県・本栖湖(もとすこ)の湖底から掘削した堆積物を分析し、過去8,000年にわたる中国大陸からの黄砂量の変動を初めて解析したと発表した。3,000年前に黄砂量が著しく減少していたことを発見。東アジアの大気循環との関連をより詳細に理解することにつながるとしている。
偏西風は地球の中緯度帯で年間を通して吹く西風であり、日本などの気候変動に大きく関わっている。
過去の偏西風の強弱や軌道の変化は、気候システムとの関連で重要視されているものの、長期間の大気循環の痕跡を見つけ、復元するのは困難でもあった。
そこで東京大学大学院理学研究科の根本 夏林(ねもと かりん)大学院生と同大学大気海洋研究所の横山 祐典(よこやま ゆうすけ)教授らの研究グループは、富士山麓の本栖湖底の堆積物を掘削し、採取した石英の年代による変化を調べた。
本栖湖は富士五湖の中で最も水深が深く、透明度が高い。風雨の影響などをあまり受けず、富士山の噴火による玄武岩や黄砂などが静かに眠っている。
黄砂には石英の成分が含まれており、堆積物中の石英量を分析して黄砂の飛来量の復元を試みた。
湖底から採取した109サンプルを細かく砕き、東大大気海洋研究所のX線解析と乾式密度計で測定した。採取した石英は中国大陸からの黄砂に由来することが分かった。
石英量は現在までの8,000年間、徐々に増加しているものの、3,000年前から2,000年前にかけての1,000年間は突然、顕著に減少していることを発見した。黄砂を運ぶ偏西風の軌道が変化したためと考えられる。
この時期は中国大陸に面した黄海や日本海で海水温が上昇し、新潟県・糸魚川で降水量の増加が確認されている。北極振動の位相が、現在と逆の負である時の気候状態として説明できる。
北極振動とは、北極と北半球中緯度帯の気圧がシーソーのように変化する現象で、負の状態では北極で気圧が高くなり中緯度帯では気圧が低くなる傾向にある。
またこの間にはエルニーニョ現象も頻繁に起きており、負の北極振動による黄砂やダスト(粉塵)供給量の変化は、エルニーニョ現象と重なるとさらに増幅することも知られている。
こうして堆積物中の石英量から過去8,000年間の黄砂の変化が高精度に復元できた。グローバルな気候変動と東アジアの大気循環の変動との関わりがより詳しく理解できるものと期待している。