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骨と筋肉の同時傷害―効率よく治す医療用シート:産業技術総合研究所ほか

(2024年9月19日発表)

 (国)産業技術総合研究所と日本特殊陶業(株)などの研究グループは9月19日、事故や手術で骨と筋肉が同時に受けた傷害を効率よく治せる医療用シートを作成したと発表した。生体組織の状態を左右する免疫細胞の性質を炎症型から治癒型に変える成分でシート表面を覆い実現した。手術後の早期社会復帰や異なる臓器の再生治療への応用が期待できるとしている。

 産総研、日本特殊陶業のほか、九州大学、北九州市立大学、国立循環器病研究センターの研究者も加わった研究グループが注目したのは、手術や事故で骨と筋肉の同時傷害を受けた場合に大きな問題となっている治癒の遅れや術後の合併症。

 研究グループは、これらの合併症は傷害によって組織が治るのに不可欠な骨と筋肉の間のコミュニケーションが破綻して起きる点に注目。組織の治癒や疾患の進展に関わる免疫細胞のマクロファージに注目、その性質を操作することで治癒を早める技術の開発に取り組んだ。

 今回の研究ではまず、生体の細胞膜を構成するリン脂質成分の一つ「ホスファチジルセリンリポソーム(PSL)」がマクロファージの性質を炎症性(M1型)から抗炎症性・組織治癒(M2型)に変えていることを見出した。そこで、このリン脂質成分とコラーゲンを組み合わせてPSL修飾コラーゲンシートを作成、骨・筋肉障害動物モデルに応用してその治療効果を確かめた。

 実験では、PSL修飾コラーゲンシートを、骨・筋肉障害動物モデルの骨と筋肉の患部に埋め込んだ。その結果、患部の炎症性を左右するリン脂質成分のPSLが、シートから2週間にわたって徐々に放出されることが分かった。さらに患部にPSL修飾したシートと修飾のないシートを埋め込んで4週間にわたり比較した実験では、いずれの期間でもPSL修飾シートの方が骨と筋肉の治った部分が大きく治療効果が高かった。

 これらの結果から、研究グループは新開発のPSL修飾コラーゲンシートが免疫細胞のマクロファージを抗炎症性・組織治癒(M2型)に偏らせることで筋肉や骨の治癒を促進しているとみている。今後は開発した医療用シートを医療材料に応用するための安全性試験などを進め、実用化に向けた研究開発に取り組む。