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多収の暖地向きの牧草「イサーン」をタイ王国で品種登録―低コストの放牧利用で、九州から関東では地球温暖化適応策にもなる:国際農林水産業研究センターほか

(2024年10月2日発表)

 (国)国際農林水産業研究センター(国際農研)などの研究グループは10月2日、温暖なアジア地域向けにイネ科の牧草「イサーン」を育成し、日本に続きタイ王国でも品種登録したと発表した。乾燥に強く、植物性たんぱく質が豊富で、均一な牧草地作りに適している。日本の温暖な地域でも地球温暖化対策としての利用が期待される。タイ農業協同組合省と(国)農業・食品産業技術総合研究機構、宮崎大学、沖縄県が研究に参加した。

 イネ科の牧草ウロクロア属は世界の熱帯、亜熱帯で広く栽培されている。イサーンは均一な牧草地作りがしやすく、高収量のうえ乾燥にも強い。また、たんぱく質の含有量が多く家畜飼料として優れている。しかし交配の歴史が浅いためアジアモンスーン地域向けの品種はなかった。

 アジアでは人口増加や経済成長で食肉消費が急増し、家畜頭数も増加している。だが栄養価の低い麦わら中心の飼料が中心で、家畜の栄養不足による生産性低下と繁殖力の低下が心配されていた。

 宮崎大学農学部が染色体倍加で作った「宮沖国一号」を種子親に、国際熱帯農業研究センターから譲渡された交雑品種「ムラトー」を花粉親として国際農研で交配した。

 農研機構で交配株の選定をし、遺伝的に均一性の高い牧草であることを判定した。タイ農業共同組合省のセンターなどタイ王国内の5か所と沖縄県で系統適応性の検定試験を実施し、最終選抜した。

 イサーンは2021年にまず日本で品種登録され、タイ王国では今年品種登録された。名称のイサーンはタイ語でタイ東北部を指す。

 この地域は12月から4月まで降雨が少なく厳しい乾季とやせた土地のため、農業生産性が低かった。今後はイサーン種子が日本とタイ王国の双方に供給されて商業利用が進めば、価格が高騰している濃厚飼料を減らして農業の経営安定化につながるものと期待される。

 栄養価の高い飼料によって飼育期間が短縮されると、家畜のゲップから発生するメタンガス削減が可能になる。これは温室効果ガスの削減にもつながるとみている。