北極も温暖化でエアロゾル増―雲の予測精度向上も :国立極地研究所/気象研究所ほか
(2024年10月1日発表)
国立極地研究所、気象研究所、名古屋大学などの研究グループは10月1日、北極域で急速に進む温暖化によって雲の中で微細な氷の結晶「氷晶(ひょうしょう)」の形成を促す大気中エアロゾル濃度が劇的に増加すると発表した。北極上空では温暖化で氷晶は作られにくくなるという定説を覆す可能性があるという。北極上空における雲の生成・消失を理解する重要な手掛かりになるとして、温暖化で生じる雲の変化の予測精度向上などにつながるとみている。
研究チームには極地研、気象研、名大のほか東京大学、ノルウェー大気研究所(NILU)の研究者も参加。2019年9月から1年間、北極域でも温暖化が深刻だとされるスバールバル諸島の標高474mのツェッペリン山観測所で、-30℃~0℃の温度域で氷晶核として働くエアロゾル濃度を連続的に測定した。
その結果、地表の気温が0℃以上になって雪が溶けて地表面が露出する4月中旬から9月にかけて、上空の大気中で氷晶の核になるエアロゾル濃度が大幅に増加していることを確認した。こうした傾向は、氷晶の形成温度としては高めの約-15℃以上でも見られたという。また、濃度が増加する期間に鉱物ダストのほか、真菌の胞子など生物由来のエアロゾルが数多く存在していることもわかった。
スバールバル諸島の地表面が露出した場所では、気温上昇によって雪や氷が溶けて地表面が浸食される。その結果、微粒子ができたり、コケ植物や地衣類などからのエアロゾルの放出が増えたりする。そのため-15℃以上の温度領域でも氷晶の核となるエアロゾル濃度が大幅に増加したと、研究グループはみている。北極域では、これまで気温上昇によって下層雲の中で氷晶は形成されにくいとされていたが、今回の研究は初めてこの予想を覆した。
北極域で急速に進行する温暖化の影響で、氷晶核として働くエアロゾルが中~長期的にどのように変動し、北極域上空の下層雲内での氷晶の形成などにどんな影響をもたらすのか。今後の重要な研究課題だと研究グループはみている。