超伝導の空間的な乱れを可視化する技術を開発―高温超伝導体の高性能化の研究加速へ:広島大学/量子科学技術研究開発機構/高エネルギー加速器研究機構
(2024年10月25日発表)
広島大学と量子科学技術研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは10月25日、高温超伝導体における超伝導の空間的な乱れを可視化する顕微観察技術を世界で初めて開発したと発表した。品質劣化を招く局所的な超伝導特性の変化の要因を探索できるため、超伝導材料の高性能化が期待できるという。
高温超伝導体は液体窒素温度(-196℃)まで冷やさなくても、それ以上の温度で電気抵抗がゼロになる物質。絶対零度(-273℃)近くまで冷やす現在の超伝導体に比べて冷却のためのエネルギーが少なくてすむ。このため、産業応用に大きな期待が寄せられており、なかでも銅酸化物系物質の研究開発が精力的に進められている。
この銅酸化物高温超伝導体には、高温超伝導体の性質に大きく関わっている「空間的な不均一性」と「波動的性質の異方性」と呼ばれている特徴があり、これらの特徴が互いにどのように関係するのかを明らかにすることが課題となっている。
研究グループはこれまでに「波動的性質の異方性」を高水準で観察できる角度分解光電子分光(ARPES)を用いた実験手法を開発してきたが、「空間的な不均一性」と「波動的性質の異方性」を同時に観察する技術はこれまで存在しなかった。
研究グループは今回、放射光をマイクロ集光させてARPES測定を行えば両者を同時に観察する実験技術を確立できるのではないかと考え、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設のマイクロARPES装置を活用して実験した。
「空間的な不均一性」とは、超伝導体の場所によって超伝導の強さを表す「超伝導ギャップ」の大きさが異なっていることを指す。
放射光を用いた顕微実験技術とデータサイエンスの手法を組み合わせることにより、銅酸化物の「超伝導ギャップ」が10µm (マイクロメートル、1µmは100万分の1m )ほどの微小なスケールで、空間的に不均一であることを世界で初めて可視化することに成功した。
高温超伝導体を用いたエネルギーデバイスの実現には、超伝導ギャップが大きく、かつ空間的に乱れのない材料を開発する必要があるが、今回の成果は超伝導ギャップの空間分布を正確に観察する手段となるもので、今後この技術により「空間的な不均一性」と「波動的性質の異方性」の関係の理解が進み、銅酸化物が示す高温超伝導の仕組みを紐解く足がかりとなることが期待されるとしている。