ウグイスの「谷渡り鳴き」で新説―警報だとする従来説を否定:国立科学博物館
(2024年10月29日発表)
(独)国立科学博物館は10月29日、ウグイスが発する「谷渡り鳴き」は警報ではなくメスへのアピールであることが分かったとする新説を発表した。谷渡り鳴きは、近くの仲間に危険が近づいていることを知らせる警報だとこれまで見られてきたが、警報ではなくメスに対するオスのアピールであることを科学的に実証した。この研究成果は、日本動物学会の学会誌「Zoological Science」で10月28日オンライン公開された。
ウグイスは「ホーホケキョ」と聞こえる綺麗な音色のさえずり以外にも様々な鳴き方をする。その一つがオスの発する谷渡り鳴き。「ピルルルルルケッキョケッキョ…」などと聞こえ時には1分間以上も長く鳴き続ける。人などが近づくとそれをキャッチして鳴き出すことから仲間のウグイスに危険を知らせている警報だと長い間考えられ、科学的研究は行われてこなかった。
それに対し、国立科学博物館 動物研究部の濱尾 章二グループ長は、30年にわたるウグイスの生態調査のなかで人などの出現が認められないところでしばしばオスが谷渡り鳴きをすること、メスの鳴き声に反応して谷渡り鳴きが始まる場合があること、などに気づき、今回の調査研究に取り組んだ。
調査は、新潟県の妙高市と上越市で行った。雪の多いこの地域では先ず春先にオスのウグイスがやって来て、縄張りを張る。2~3週間遅れでメスが渡来して繁殖活動を始めることから、メスが飛来していない時と飛来している時のオスの行動を比較した。これを4月中旬から8月中旬にかけ約20日ごとに計7回にわたって行い出会ったオスのウグイスを5分間観察して谷渡り鳴きの回数を調べた。
すると、メスがいない4月から5月の初めにかけては谷渡り鳴きがあまり行われず、メスが来る5月中旬の繁殖期になるとそれが頻繁になって5分間に最大で20回も谷渡り鳴きすることを観測した。
このようにオスはメスがいない時期にはあまり谷渡り鳴きをせず、メスが渡来するとそれが一変して活発に鳴くようになるが、その谷渡り鳴きの声によって周辺のウグイスが藪(やぶ)の中に逃げ込む回避行動を取るようなことはなかった。このことから「谷渡り鳴きの音声は警報ではなくメスへのアピールである」ことが分ったと濱尾グループ長は結論している。