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積雪地方の「ジャパニーズウイスキー」造りに好適―二条オオムギの新品種開発に成功:農業・食品産業技術総合研究機構

(2024年11月19日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は11月19日、雪の多い地方で栽培できるウイスキー原料の「二条オオムギ」を開発することに成功したと発表した。日本産のウイスキーは「ジャパニーズウイスキー」の名で近年国内だけでなく海外でも人気化しているが、課題となっているのが雪の多い積雪地での栽培に適合した原料オオムギの開発。新品種はその要望に応えようと開発したもので、名前を「こはく雪」といい、その名のように琥珀色(こはくいろ)のウイスキーができる。既に品種登録出願を終え、この秋から新潟県などで一般栽培がスタートし、同県などの蒸留所でウイスキー造りが開始される予定という。

 日本にウイスキーが伝わってきたのは黒船来航(1853年)の時のこと。「サスケハナ号」の船内検査に乗船した幕府の役人にふるまわれた時とされている。

 国産化はそれよりずっと後の1920年代に入ってからだが、近年になって日本産の「ジャパニーズウイスキー」の評価が高まり、小規模な蒸留所が造るウイスキー(クラフトウイスキー)のメーカーが2015年頃から増え国際的なコンペティションで世界最高賞を受賞する所まで出ている。

 このため、輸出が大幅に増え、農林水産省の「2023年農林水産物・食品輸出実績」によると同年のウイスキー輸出額は501億円、品目別輸出額の5位にランクされている。

 そこで高まってきているのが、特徴のあるウイスキー造りのため地元で作られる二条オオムギを原料に使いたいとするニーズ。

 日本で栽培されている食用の麦は、小麦、オオムギなど4種類だが、ウイスキーの原料に使われるのはオオムギの内、穂を上から見た時に種子が2列見える「二条オオムギ」と呼ばれる種類。その麦を発芽させ、含まれている酵素でデンプンを糖化、酵母で発酵させた後に蒸留器で複数回蒸留を繰り返し木製の樽に詰めて熟成するとウイスキーができあがる。

 これが、今も昔も変わらないウイスキー造りの基本プロセスだが、これまで雪多い北日本のウイスキーメーカーからのニーズに応えられるような積雪地でも安定して栽培できる耐雪性や耐寒性の優れた二条オオムギはなかった。

 今回の新二条オオムギは、世界的な豪雪都市である新潟県の上越市にある農研機構の中日本農業研究センターがそのニーズに応えようと開発した。

 中日本農業研究センターが2017年から2022年にかけて行った生産力検定では、今回の新品種「こはく雪」の1a(アール、1アールは100㎡)当たりの収量は52㎏、現在ウイスキー造りに使われている品種の40㎏台を上回り、積雪地や寒冷地での安定した生産が可能であることが分かった。 

 農研機構は、2031年度で北陸・東北地域を中心に500ha(ヘクタール,1haは1万㎡)、2,000t(トン)の新品種こはく雪生産を見込んでいる。

「こはく雪」の穂型

左:ファイバースノウ(六条・食用)
中央:こはく雪(二条・ウイスキー用)
右:ゆきはな六条(六条・ウイスキー用) ©農研機構