動物の群れの協調的行動の謎を脳科学理論で分析―刺激に過剰反応する個体群と反応の鈍い個体群が役割分担:筑波大学
(2024年12月3日発表)
筑波大学システム情報系の研究チームは12月3日、協調的な行動を行う鳥や魚などの群れにおいて、群れの意思決定を行う「柔らかいシステム」は、周りの刺激に過剰に反応する個体群と、反応の鈍い個体群の役割分担から成り立っていることがわかったと発表した。全体の意思決定を最適化するためには個体間の役割分担が重要であることが示されたとしている。
協調的に行動する鳥や魚などの群れが、柔軟で素早い意思決定を行うためには、環境に対して柔軟に対応できる「柔らかいシステム」の状態にあること、すなわち情報理論でいう、臨界状態にあることが重要とされている。
しかし、このような臨界性が動物の群れで比較的容易に達成される理由はよくわかっていない。
研究グループは今回、10匹の鮎の群れを対象に、臨界状態がどのように成立しているのかを、脳科学で近年注目されている統合情報理論を用いて詳細に調べた。具体的には、群れを模す代表的な2つのモデルである自己駆動粒子モデルとBoidモデルに統合情報理論を適用した。
統合情報理論は、脳波のどこがどれくらい「一体」になっているかを見積もることで意識の度合いや状態を数理的に評価する理論で、近年は脳活動以外にも利用が広がっている。自己駆動粒子モデルはシステムの臨界性を調べるのに、またBoidモデルは様々な群れの形態の再現などに一般に使われている。
これらモデルに統合情報理論を適用した結果、ネットワーク内部で統合された情報量を指す統合情報量が臨界現象の程度を表すことなどが確認された。
次いで実際の鮎の群れに対して統合情報理論を適用したところ、鮎の群れは大域的にはこれまで確認されていた臨界状態が確認された一方で、局所的には複数の強い臨界度を持つグループが共存していることなどが分かった。
また、群れの意思決定を行う「柔らかいシステム」は周りの刺激に過剰に反応する個体群と反応の鈍い個体群の役割分担から成り立っており、このことが容易に群れ全体の臨界状態をもたらしていると考えられた。
鮎の群れの内部では、刺激に過剰に反応する個体群に対して、あまり反応しない個体群が一種の情報のハブとして機能することで柔軟な意思決定を可能にする臨界状態が実現されていることが解明されたとしている。