腸内菌が脳に果たす新たな役割を発見―神経細胞の正常な発達に腸内菌が必要:産業技術総合研究所ほか
(2024年12月16日発表)
(国)産業技術総合研究所は東京大学、東亜薬品工業(株)と共同で12月16日、脳で新しく生まれる神経細胞(ニューロン)の正常な発達に腸内菌が必要であることを発見したと発表した。かつては、脳のニューロンは生まれた後増えないと考えられていたが近年の研究で脳では成人してからも新しいニューロンが作られていることが分っている。大人の脳が新しい神経細胞を作り出す現象は、「成体神経新生」と呼ばれるが、腸の中の腸内菌がその成体神経新生を正常に進める「キープレイヤー」として働いていることを見つけた。
人間の腸内には1,000以上の菌種と、約100兆個にものぼる菌体が存在している。その様子を百花繚乱の花畑(フローラ)に例えて「腸内フローラ」と呼んでいるが、それらの内人体に良い影響を与える、いわゆる「プロバイオティクス(善玉菌)」が実際に脳にどのような影響を与えているのかについての詳細な解析はまだなされていない。
また、大人になってからの成体神経新生は、脳の海馬(かいば)の領域で起きることが知られ、記憶や学習だけでなく感情のコントロールにも関わっているとされている。ぞのため、成体神経新生が正常でないとアルツハイマー病や、統合失調症、うつ病などの精神疾患が生じる可能性があると指摘されている。
今回の研究はその成体神経新生における腸内菌の役割を明らかにしようと産総研が2016年に発表しているヒト由来の神経幹細胞(神経細胞に分化する能力を持つ細胞)の長期培養技術とマウスの脳の組織解析技術を使ってマウスを対象にして行った。
その結果、3種類のプロバイオティクス(テアニン、カルノシン、3-ヒドロキシ酪酸)の摂取により神経細胞を作り出す神経幹細胞の数が通常飼育のマウスより増えることを発見した。
研究グループは「3種類のプロバイオティクスはマウスだけでなく人の成体神経新生も促す可能性があることが分かった。」といっている。
近年、老齢マウスなどの成体神経新生の能力を促進させることで衰えた記憶力が改善したとする報告も出ており、研究グループは研究を更に進め「プロバイオティクスの脳の健全性維持への有効性を詳細に検討する予定」にしている。