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他者の理解にメタ認知の投影と、知識に基づく理解―別々の脳部位が他者理解システムを担う:理化学研究所

(2025年1月20日発表)

 (国)理化学研究所の脳神経科学研究センターの国際共同研究グループは1月20日、ヒトが自己を鏡に他者の心を想像・理解する他者理解システムとして、メタ認知の他者への投影である「社会的メタ認知」と、知識に基づいた他者の理解である「社会的認知」の2つがあり、それらの他者理解システムを担っているのは異なる脳部位であることを突き止めたと発表した。

 メタ認知とは、思考や知覚などの自分自身の認知活動を認知し、主観的に評価する能力で、内省とも呼ばれている。

 研究グループは今回、ヒトが自己のメタ認知を拡張・敷衍(ふえん:意味、趣旨などを言葉を付加して説明すること)して他者を理解しようとする心の働きを解明しようという研究に取り組んだ。

 自分のチームメンバーに新たにパフォーマンスの劣るビギナー、あるいはパフォーマンスに優れるエキスパートが加わった場合を想定、その下で新たな業務をこなす場面に立ち向かうという課題を提示し、実験参加者の脳の活動を機能的MRIや経頭蓋磁気刺激法といった脳科学実験・計測装置を使って調べた。

 その結果、自己よりもパフォーマンスの低いビギナーのパフォーマンスを予測する課題では、前外側前頭野(47野)が活動し、メタ認知の他者への投影(社会的メタ認知)に重要な役割を担っていることが見出された。

 また、自己よりもパフォーマンスの高いエキスパートのパフォーマンスを予測する場合には、メタ認知に基づいた推定が困難であるため、過去の成績の履歴や信念に基づいたヒューリスティクスが用いられ、側頭頭頂部接合部(TPJ)が知識に基づいた他者の理解に特化した役割を果たしていることがわかった。

 今回の研究で得られた「社会的メタ認知」と「社会的認知」の2つのシステムがあるという知見は、対象者に適合させた教育法・専門家育成法の開発に貢献することが期待されるという。