早産児の脳障害治療に道―大人の脳梗塞に応用も:名古屋市立大学/生理学研究所/近畿大学/産総技術総合研究所
(2025年1月23日発表)
名古屋市立大学、(国)産業技術総合研究所などの研究グループは1月23日、早産に伴って起きる恐れのある脳障害を防げる可能性を見出したと発表した。生後、脳内で急速に進む神経細胞「ニューロン」の新生が早産によって阻害される仕組みを初めて解明、出生後の治療に道をひらいた。大人の脳梗塞などの治療法開発にもつながると期待している。
近畿大学や生理学研究所、デンマークのコペンハーゲン大学も加わった研究グループが発見したのは、神経細胞に分化する能力を持つ胎児期の神経幹細胞「放射状グリア」に起きる出生時の変化。出生に伴って急速に増殖する細胞で需要が増えるグルタミンの代謝によって放射状グリアが静止状態となり、生後も神経細胞を作る神経幹細胞としての働きが長期間維持されるようになる現象。
しかし、早産ではこの一連のプロセスに障害が起き、胎児期の神経幹細胞である放射状グリアが一時的に過剰に活性化。その結果、神経幹細胞が枯渇してしまい、出生後に脳内で活発に起きるはずの神経細胞の新生が低下することをマウスによる実験で明らかにした。さらに、早産で死亡したヒトの脳の解剖結果でも、同様に神経幹細胞が枯渇して神経細胞の新生が低下していることを世界で初めて見出した。
そこで研究グループは、細胞増殖を促進するよう伝えている神経ネットワークの働きを阻害する薬「ラパマイシン」を早産マウスに投与。神経細胞が枯渇してしまうのを防いで、早産に伴う脳の障害が起きるのを予防する治療法の可能性を探った。その結果、出生後でも胎児期の神経幹細胞である放射状グリアが静止化して神経幹細胞の枯渇を防ぐことができ、ニューロンの新生状況が改善されることを明らかにした。
研究グループは、今回の成果について「出生に伴うグルタミン代謝変動は、神経幹細胞以外のさまざまな組織幹細胞の運命にもかかわっている可能性がある」「なぜ大人の脳は再生しにくいのか、という謎を解く手がかりになる」とみている。そのため、早産児の神経発達予後の改善や、大人の脳梗塞などの治療法開発にもつながると期待している。