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脳は予想外の刺激に対して大きな痛みを感じとる―慢性痛の患者の痛みを抑える新たな治療法に期待:筑波大学

(2025年1月23日発表)

 筑波大学システム情報系の井澤 淳(いざわじゅん)准教授の研究グループは1月23日、脳が痛みを感じる仕組みを仮想現実(VR)で調べた結果、予想外のことが起きると脳が痛みを強く感じることを確認したと発表した。慢性痛患者や外傷患者の痛み緩和治療法につながると期待されている。

 人が感じる痛みは、刺激の大きさだけでなく、予測と感情(内的要因)に加え、運動や視覚情報(外的要因)によっても大きく変化することが知られている。

 これまでの研究では、脳が痛みの推定強度を実際の痛みとして感じ取る「推定仮説」と、脳が予測と推定結果の誤差(驚き)そのものを実際の痛みとして感じ取る「サプライズ仮説」が提案されていて、2つの仮説は対立していた。

 研究グループはこの2つの仮説を比較し、どちらが痛みのメカニズムをより適切に説明できるかの解明に挑戦した。

 研究には健常者23人(男性15人、女性8人、平均年齢21.5歳)が協力した。VRによる仮想ナイフを利用して自分の腕を刺す動作中に瞬間的な熱刺激を与え、感じた痛みの強度を調べた。

 実験では、ナイフが見える「脅威の提示」とナイフが突然消える「脅威の消失」の2つの視覚条件と同時に熱刺激を与え、「刺激同時」と遅れて与える「刺激遅延」の2つのタイミングを組み合わせてみた。

 脳は、予測と提示された熱刺激を統合して痛みを感じる。だが予測は刻々と変化するため、さまざまなタイミングでの熱刺激に対する痛みのデータから推定し、特徴を定量化できるようにした。

 痛みの予測は、脅威消失、刺激遅延条件で最も低下するという「推定仮説」が正しければ痛みは最も小さくなるはずだ。「サプライズ仮説」が正しければ大きい誤差で痛みは増加するはず。

 実験の結果、脅威消失、遅延条件で痛みの強度が顕著に増加したことから、脳は痛みの予測と推定結果との誤差を痛みとして知覚していることがわかった。

 痛みの知覚は、脳が作った予測と現実との差異に強く依存することが初めて実証されたとしている。

 痛みを予測する習慣や、行動、認知のパターンを変えることで、痛みを抑える新たな治療法につなげられるとみている。