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ハエに寄生するハチの謎―遺伝子レベルで解明:筑波大学ほか

(2025年1月29日発表)

 筑波大学と高エネルギー加速器研究所、東京大学の研究グループは1月29日、ハエの幼虫に卵を産み付けてサナギのまま生かし、栄養を奪い取って成長する寄生バチの謎を遺伝子レベルで解明したと発表した。ハエが成虫になるのを防ぐためにハチが毒成分を作る遺伝子を突き止め、その働きを阻害すればハチはハエの幼虫の体内で成長できなくなることが分かった。特定害虫に対する農薬の開発などに役立つ。

 寄生バチは昆虫やクモの体内に卵を産み、その体内で栄養を奪って成長する。今回、研究対象にした「ニホンアソバラコマユバチ(以下ハチ)」はキイロショウジョウバエ(ハエ)の幼虫に卵を産み付ける。さらにハエを生かしたままその体内でふ化し、ハエがさなぎに成長するまで寄生して栄養を奪い取る。”飼い殺し”ともいえる戦略をとって繁殖するハチだ。

 研究グループは今回、ハチに卵を産み付けられると、ハエの幼虫が成虫になる際にその翅(はね)や眼になる組織「成虫原基」の細胞分裂が止まることに注目した。一方で、ハエの幼虫が発育を続けてさなぎになるのに欠かせない脳神経系や筋肉、脱皮と変態に必要な内分泌器官、脂肪組織には変化が起きないことを見出した。

 そこで研究グループは、ハチがハエに卵を産みつける際に卵の成長に必要な成分を作るハエの組織だけ残し、自らの卵の成長に不必要な組織は選択的に殺す毒成分を作っていると想定。ハチのゲノム(全遺伝情報)を詳しく解析したうえで毒成分を作る195個の遺伝子に注目し、その働きを詳しく調べた。

 実験で、これらの遺伝子のうち特定の二つの遺伝子が働かないよう操作すると、ハチに卵を産み付けられてもハエの翅や眼になる細胞の分裂は止まらず成長を続けた。そのため、この二つの遺伝子の働きが、ハチに卵を産み付けられたハエが羽化するなどの正常な成長を妨げ、ハチに栄養を与え続ける要因になっていると判断した。

 研究グループは、今回の成果について「基礎生物学的な知識にとどまらず、特定害虫に対する農薬のシーズや、組織特異的に作用する薬剤の開発等に新たな知見を提供できる」と期待している。