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HDDの磁気記録方式を改善し記録効率を向上―エネルギー消費の削減や記録の大容量化に期待:物質・材料研究機構

(2025年2月10日発表)

 (国)物質・材料研究機構は2月10日、米国のシーゲイトテクノロジー社と共同で、現在用いられているHDD記録方式の記録効率を35%向上できる新技術を考案し、原理を実証したと発表した。HDDの大容量化や消費電力の削減につながる成果で、HDDの主要記録方式としての実用化が期待されるとしている。

 開発したのは「熱アシスト磁気記録」と呼ばれる現行のHDD記録方式に、スピントルクの効果を組み合わせた技術。

 熱アシスト磁気記録は、情報記録時に媒体をレーザーで局所的に加熱し、高温にすることで一時的に媒体の保磁力を低下させ、磁化反転を容易にして記録する方式。

 HDDメーカーであるシーゲイトテクノロジー社は、HDDの媒体として優れた特性を持つ鉄白金(FePt)ナノグラニュラー媒体に熱アシスト磁気記録を導入する技術を数年前に開発・実用化し、HDDの記録密度の向上を実現した。

 しかし近年、HDDにはさらなる大容量化と低消費エネルギー化が求められ、製造技術の革新が迫られていた。

 研究グループは今回、熱アシスト磁気記録にスピントルクの効果を組み合わせた新たな記録方式を考案し、課題を解決した。

 具体的には、鉄白金(FePt)層の下にマンガン白金(MnPt)層を挿入した新たな積層構造を考案、レーザー照射時に記録媒体内に生じる温度差を活用する。温度差によって発生するスピンがスピントルクを生み出し、磁化反転を補助することで、従来の熱アシスト効果を増強する仕組み。

 スピントルクは、伝導電子のスピンが磁性体と相互作用し、磁化の方向を変えようとする力で、このスピントルクが熱ゆらぎ効果を補完し、記録効率を高める。実験の結果、従来の熱アシスト磁気記録方式に比べ約35%の記録効率向上が認められたという。

 スピントルクの効果を組み合わせたスピントルク熱アシスト磁気記録方式は、エネルギー消費を削減でき、HDDを主要な記憶媒体としているデータセンターの消費電力を大幅に削減できる可能性がある。研究グループは新技術をHDDの今後の主要な記録方式として実用化することを目指したいとしている。