新しい光機能素子を開発―コガネムシをモデルに:筑波大学
(2025年2月10日発表)
筑波大学は2月10日、緑色に輝くコガネムシの翅(はね)を利用して光の反射の仕方を化学的に変えられる新材料を開発したと発表した。翅の表面を導電性高分子膜で覆い酸化や還元をすることで、光の波の振動方向が回転している円偏光を照射した際の反射強度を制御できる。生体材料と合成高分子の組み合わせによって、今までにない新しい機能性素子を実現する道がひらけると期待している。
筑波大学の後藤 博正 准教授が研究に用いたのは、アオドウコガネムシの体を覆う固いさや翅。その表面には微細な凹凸構造があり翅の強度を高めている。後藤准教授はこの翅が緑色に光って見えるのは、この凹凸構造によって反射光が干渉し合い緑色の光が強められるためだとみて詳しく調べた。
実験ではまず、翅にさまざまな光を当てた。その結果、振動方向が左向きに回転する波長448nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の左円偏光を特に強く反射、翅の表面が緑色に見えることがわかった。そこで翅の表面に導電性高分子「ポリアニリン」をコーティングした素子を作成して詳しく分析した。
ポリアニリンは酸化、還元することで反射光の色や光の透過度を変化させられる。この性質を利用して、試作した素子が円偏光を反射する際に、その強度が酸化・還元によってどう影響を受けるかを調べた。
その結果、アンモニアで表面の導電性高分子膜を還元すると、赤外域の偏光面が左向きに回転する光の反射「左円偏光反射」が見られた。一方、膜の表面が酸化状態のままだと、この波長領域での反射はみられなかった。
翅の表面にコーティングしたポリアニリン自体には左右どちらかに偏った円偏光反射はない。そのため、今回作った素子ではポリアニリン層が入射光、反射光の強度を調整する光学フィルターとして働き、その下の翅の層が円偏光を反射したと後藤准教授はみている。ポリアニリンの酸化と還元による発色の変化と昆虫の持つ円偏光反射特性が組み合わさったことで、円偏光の反射強度を制御できる素子が得られた。
後藤准教授は「生体高分子と合成高分子の組み合わせは、今までにない機能を持つ新材料としての可能性がある」とみて、他の反射光帯域を持つ昆虫についても同様の研究を進め、次世代の新材料開発に新展開をもたらしたいと話している。