様々な基材に使える抗ウイルス剤コーティング技術を開発―薬剤を簡単、安全に固定でき、効果は長時間継続:産業技術総合研究所
(2025年2月17日発表)
(国)産業技術総合研究所と就実大学の共同研究グループは2月17日、シートから繊維までの幅広い形状の基材に対して、短時間で抗ウイルス薬剤成分をコーティングする技術を開発したと発表した。マスクや一般服飾、医療用繊維部材など、粘膜や傷口に長時間接触するような用途にも適用が期待されるという。
ウイルス感染を予防する抗ウイルスコーティングの需要が高まっているが、既存の技術は、バインダー剤、接着剤、プラズマ処理などを使って抗ウイルス性薬剤を基材にコーティングするため、基材へのダメージの懸念や意匠性への影響があるほか、基材の表面化学構造が限定されるという課題がある。
簡便・温和な表面改質技術の開発に取り組んでいる産総研のグループは、今回、光表面化学修飾(PSM)と呼ばれる表面改質技術を開発、安全かつ短時間で抗ウイルス薬剤コーティングを可能にした。
新技術は、紫外線照射により基材の励起と改質薬剤の分解または励起を室温下で同時に誘起し、共有結合を介して導入官能基を基材の事前処理なく、かつ、一段階で簡便にバインダーレス固定できる。
また、シート状や繊維状などの形状に対応可能で、基材としての材料特性を維持しつつ、短時間の紫外線照射で表面特性を新規に付与できる。
実験では、洗口液などで日常的に利用されている抗ウイルス薬のクロルヘキシジン(CHX)を取り上げ、PETフィルムなどのシート状ポリマー材料、ポリエステル繊維布、綿繊維布へのコーティングを試みた。CHXをこれら基材に塗布した後に紫外線を1分程度照射した。
その結果、CHX成分の抗ウイルス効果を損なうことなく、CHX分子からの塩素原子1個の脱離反応を経由して基材表面へ直接分子固定できることが確認された。固定された薬剤は溶出しないので粘膜や傷口に長時間接触するような用途でも安全に使用できる。
就実大学においてCHX固定部材の繊維製品と非繊維製品の抗ウイルス性試験を実施し、抗ウイルス活性値を算出したところ、前者は99.9%以上、後者は99.99%以上と、いずれも非常に高い不活化率が示された。また、実施中の実証試験では、これまでのところ、インフルエンザウイルス不活性化効果が2ヶ月間持続しているという。
新コーティング技術は繊維の風合いを損なうことなく繊維製品に適用可能であり、マスクや一般服飾、医療用繊維部材、装具などへの広い適用が期待されるとしている。