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AI機械学習によって放散虫の微化石分類の高精度化に貢献―石油探査、過去の温暖化の解読などに活用期待:産業技術総合研究所

(2025年3月6日発表)

 (国)産業技術総合研究所 地質情報研究部門の見邨和英(みむら かずひで)研究員らの研究グループは3月6日、人工知能の機械学習による新たな画像分類モデルを使い、地層中に含まれる微化石のわずかな画像からでも高い精度で放散虫の種を分類できたと発表した。

 微化石とはプランクトンなどの生物の遺骸(いがい)をいう。これが見つかった地層がいつ、どんな状態で形成されたかの古環境や年代など地球の歴史を知る重要な手掛かりとなる。過去の温暖化記録の解読や地層に存在する石油、有用金属の資源探査などに欠かせない役割を持っている。

 これまでは専門家が顕微鏡を駆使して詳細な形状を観察し分析してきた。しかし、特殊な専門知識と技術、多くの人手を必要とするために効率が悪かった。そのため、最近では機械学習の一つである画像分類を使った観察法の新モデル構造や、数式で生成された幾何的な図形による学習方法の新技術が生まれている。

 地層中に稀にしか存在しない微化石の場合は、機械学習に必要な量の画像(教師データ)が確保できず、なかなか高精度化が実現しなかった。そこで最近はコンピュータービジョンの研究によって新モデルの構造が提案され、高精度化を実現している。

 産総研 人工知能研究センターでも、数式による事前学習の有効性や、限られた少ないデータから高精度に画像分類ができることを報告している。今回はこれらをうまく連携させて画像分類に応用した。膨大な量の画像収集が難しい分野でも使える見通しがついたという。

 これまでの地質研究に使われてきた32種類の化石と約5万枚の画像による放散虫の微化石画像のデータセットを使い、実画像や幾何学的な図形による事前学習で訓練をした。平均で86%という専門家に近い精度で分類が実現し、さらに高度化できる見通しもついている。

 

研究で検討した放散虫画像の例
画像提供:産業技術総合研究所(原論文の図を引用・改変)