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リグニンを分解する細菌の通常とは異なる代謝明らかに―バイオマス資源としてのリグニンの利用に向け一歩前進:高エネルギー加速器研究機構ほか

(2025年3月7日発表)

 高エネルギー加速器研究機構と長岡技術科学大学の共同研究グループは3月7日、木に含まれる高分子リグニンを分解する細菌の働きの一端を明らかにしたと発表した。リグニンの持続可能な利用への貢献が期待されるという。

 リグニンは分解されにくい高分子を多く含んだ木材成分。セルロースに次いで多く木に含まれており、バイオマス資源として期待されているが、分解されにくいことなどから開発・活用は遅れている。

 リグニンを分解する細菌「SYK-6株」の研究に取り組んでいる共同研究グループは、これまでの研究で、この細菌の代謝はヒトやマウス、酵母、大腸菌などの典型的な生物とは異なっていることを見出した。そこで今回、その実証に取り組んだ。

 生物の細胞にはDNAやアミノ酸の合成に関わる「1炭素代謝」という代謝経路があり、MTHFRと名付けられた酵素が重要な役割を果たしている。ヒトや大腸菌などの通常の生物では、MTHFRはメチレンテトラヒドロ葉酸をメチルテトラヒドロ葉酸に変換・還元する。

 ところが、リグニン分解菌SYK-6株のMTHFRは通常とは違い、メチルテトラヒドロ葉酸を酸化し、メチレンテトラヒドロ葉酸を生成する反応を触媒する。これは、SYK-6株が通常のようにグルコースなどを取り込んで生育することができず、低分子のリグニンを摂取して生育するために、独自の1炭素代謝を進化させてきたと考えられるという。

 研究グループは今回、MTHFRを精製して生化学的な解析をするとともに、この酵素の立体構造を明らかにするために、放射光X線を用いてX線結晶構造解析を行った。

 その結果、SYK-6株のMTHFRはメチルテトラヒドロ葉酸の酸化を効率よく触媒することが確認され、その理由の解明にも成功した。すなわち、SYK-6株のMTHFRが持つ独特な酵素機能とその触媒反応メカニズムを結晶構造などから解明した。

 さらに、SYK-6株のMTHFRと似た機能を持つと考えられるたんぱく質をデータベース中で探したところ、SYK-6株と同様に、一風変わった1炭素代謝を持つ微生物が多数存在しそうなことを見出した。この成果は、微生物の代謝研究に新たな視点を提供するとしている。