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温暖化でどうなる運動部活動―不可欠な抜本的熱中症対策:国立環境研究所

(2025年4月8日発表)

 (国)国立環境研究所と早稲田大学は4月8日温暖化が進むと、国内で数百万人が参加する学校の屋外での運動部活動は熱中症のリスクで2060~2080年代には困難になるという研究結果を発表した。現在も年間数千件に上る熱中症発症のリスクを避けるには早朝練習への切り替えや屋外練習の削減だけでは不十分だとして、屋内運動場の整備など抜本的な対策が必要と指摘している。

 取り組んだのは、熱中症対策で広く使われている暑さ指数(WBGT)を時間単位で予測すること。この指数は人体の熱収支に大きな影響を与える湿度と輻射熱、気温を考慮して決められるが、運動部の活動のように特定の時間帯を対象に予測したものはこれまであまりなかった。

 そこでAI(人工知能)技術の一つである機械学習を用い、国内842都市における過去12年間分の気温や湿度、風速、日射量の気象データから2060~2080年代の暑さ指数を時間単位で予測する技術を開発。国内842都市の時間別暑さ指数を計算した。さらに全国を8地域に分けて運動を中止すべきかなどを評価した。

 その結果、温暖化ガスを大幅に抑制した場合、8地域中5地域で激しい運動は中止、1地域ではすべての運動を中止と評価された。活動制限期間は8地域合計、年間で延べ12ヶ月で、最も長期の制限が必要とされた地域は4ヶ月だった。一方、今後も排出抑制しない場合は、激しい運動は中止とされたのが8地域中6地域、すべての運動を中止とされたのが4地域だった。活動制限期間は8地域合計で延べ年間19ヶ月に達し、最も長い地域は6ヶ月に及んだ。

 研究グループは、これらの結果を受け①屋外活動を早朝(7~9時)にする、②週のうち暑い2日分の屋外活動を空調のきいた屋内に変更、③これら両方を実施、という対策をした場合の効果も検討した。その結果、いずれの対策も最も温暖化が進む場合にも大きな効果が期待でき、すべての運動を中止という事態はほとんどなくなった。ただ現在、温暖とされる地域を中心に激しい運動は制限されることになった。

 研究グループは「今回想定した対策はもとより、屋内運動場の整備や夏季のより涼しい地域での活動などを実行していくことが重要」と指摘している。