「時間結晶」を室温で観測することに成功―ダイヤモンドを使い国際協力で達成:筑波大学/量子科学技術研究開発機構
(2017年3月8日発表)
筑波大学、(国)量子科学技術研究開発機構(QST)と住友電気工業(株)は3月8日、国際共同研究により「時間結晶」を室温で観測することに成功したと発表した。時間結晶を生成させたとする報告は、世界的にもまだ少なくこれからの進展が注目される。
共同研究には、ハーバード大学(米国)、ウルム大学(ドイツ)、プリンストン大学(米国)、カリフォルニア大学(同)の研究陣が参加した。
原子などの粒子が空間的に周期的なパターンをとって並んだ構造のことを結晶という。こうした結晶に見られる規則的パターンが三次元空間にだけでなく時間的に周期性をもって現れる四次元結晶構造のことを時間結晶と呼ぶ。
時間結晶の概念が米国マサチューセッツ工科大学の教授から提唱されたのは、2012年のことで具体的な構造や作り方についての言及はなかったが、常識を破る全く新しい物質相の概念であったことから大きな反響を呼ぶと共に議論の対象となり、2015年には東京大学物性研究所の教授らから条件付きだが「時間結晶は存在しないことを証明した」と否定する報告が発表されている。
しかし、2016年頃から否定説を覆す実際に時間結晶ができたとする実験報告が米国メリーランド大学の研究陣など複数の研究グループから発表され出し世界各国で一気に研究が活発化しだしている。
今回の成果は、こうした背景のもとで得られたもので、メリーランド大学の発表が極低温で時間結晶の生成を行ったというのに対し、ダイヤモンドを使って室温での時間結晶の生成を実証した。
実験は、QST高崎量子応用研究所(群馬県、高崎市)の電子線加速器を使って行われ、電子線を照射しながらダイヤモンドの空孔(原子が存在しないところ)を利用したNVセンターと呼ばれる量子素子が作れる高温電子線照射技術を開発。窒素を不純物として100ppm(ppmは100万分の1)程度含む合成ダイヤモンドに真空中700~800℃で電子線を照射、高品質のNVセンターを作製しこのダイヤモンド単結晶を用いて室温で時間結晶の生成を実証した。
研究グループは「新しい物質相の存在が実証されたことは、量子コンピューティング、量子計測、量子シミュレーションに重要な、量子多体系のダイナミックス制御へのマイルストーンとなる」といっている。