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シンガポールの熱帯雨林でフタバガキ樹木の雑種化を発見:森林総合研究所

(2017年3月22日発表)

 (国)森林総合研究所は3月22日、シンガポールにわずかに残された貴重な熱帯雨林(ブキティマ自然保護区、164ha)で、フタバガキ科の数種の間で雑種化が起きている事実を発見し、実態を初めて詳細に解明したと発表した。気候変動の影響などで林内の乾燥化が進んだことなどが原因で、雑種化が進むと純粋な親種が消滅する危険性があると警告している。

 高知大学、愛媛大学、大阪市立大学、国際農林水産業研究センター、シンガポール国立南洋理工大学との共同研究による。

 東南アジアの熱帯雨林は、植物の種の多様性が高い貴重な樹種が多いが、開発によって森林の小面積化が進んでいる。中でもシンガポールでは、元の自然植生の99%が失われ、植物種の26%が絶滅した。

 ブキティマ自然保護区では150年以上前から熱帯雨林が保護され、シンガポールの植物種の約半数が生育している。

 大面積で保全されている熱帯雨林では通常は樹木の雑種化は稀なこととされる。これは開花期の微妙なズレなどの自然に備わった交雑の起きにくい仕組みが働いているためとみられる。

 ところが、親種の純血な子孫は相対的にできにくい上に、環境の変化によって雑種が旺盛に成長する雑種強勢と呼ばれる現象などによって、親種が駆逐(くちく)されてしまうことがある。

 森林総研がこの自然保護区を調査したところ、フタバガキ科樹木の中に変わった葉を多数見つけた。テンバガサラノキの葉は幅広で葉脈対が多く、またセラヤサラノキは細身で葉脈対が少ない特色があるが、雑種は「細身で葉脈対が多い」中間の形をしていた。遺伝子を解析したところ双方を親とする雑種だった。

 また調査区域を決めて4年間の継続調査をしたところ、若い稚樹(ちじゅ)に占める雑種の割合は予想以上に高く、この森林全体で母樹が80本程度まで減少しているテンバサラノキは40%以上に、母樹が1,000本以上残るセラヤサラノキでも7%近くに達した。

 今後、林床が明るい場所が増えたり気候変動によって林内の乾燥が進んだりすると、雑種の生存率や成長速度が上がり、親種を衰退させ絶滅に向かわせる心配があると指摘している。雑種化を抑えるために、雑種化が起こるメカニズムの解明にも取り組むことにしている。