世界最高の水酸化物イオン伝導性―燃料電池の低コスト化に道:物質・材料研究機構
(2017年4月15日発表)
(国)物質・材料研究機構は4月15日、燃料電池を低コスト化できる新しい固体電解質材料を開発したと発表した。粘土鉱物を厚さ1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度にしたナノシートを用いた水酸化物イオン伝導体で、従来の10~100倍という世界最高の電気伝導率を実現した。水酸化物イオン伝導体は燃料電池の大幅な低コスト化が可能な新材料として期待されているが、実用化には伝導率の大幅な改善が課題とされていた。
燃料電池は水素などの燃料を電気化学反応させて直接電気を取り出すもので、電気自動車をはじめさまざまな分野でクリーン電源として期待されている。固体電解質はこの電気化学反応に欠かせない“心臓部”で、従来は水素イオンで電気を伝える水素イオン伝導体を用いるものが主流だった。
今回開発したのは、水素イオンに代わり水酸化物イオンで効率よく電気を伝える新材料。粘土鉱物の一種で正電荷を帯びた水酸化物層の間に負の電荷を持つイオンが挟まれた層状構造の物質を利用、これを化学的な処理で一層ずつばらばらにし分子レベルの厚さの単層ナノシートを作成した。
実験では、くしの歯状の微細な電極を二つ向き合わせて配置、その上に単層ナノシートを堆積させた装置を試作し電極間に電圧をかけてイオン伝導率を測定した。その結果、伝導率が1cm当たり0.1S(Sはジーメンス、電気伝導率の単位)と、従来の水酸化物イオン伝導体に比べ10~100倍の高いことがわかった。
この伝導率は報告された水酸化物イオン伝導体の中で最も高く、これまで主流だった水素イオン伝導体に匹敵するという。高い伝導率は単層ナノシートの表面に多くの水分が吸着し、水酸化物イオンが自由に動くことができるようになったためとみられる。
水酸化物イオン伝導体を用いればアルカリ性の環境中で燃料電池を駆動でき、鉄やコバルト、ニッケルなどが触媒として使える。このため、強酸性環境が必要で高価な白金系の金属触媒を使うしかなかった従来の水素イオン伝導体を用いた燃料電池に比べ、大幅な低コスト化が実現できる。
今回の成果について、同機構は「長年待望されていた水酸化物イオン駆動型の固体燃料電池実現に向けた大きな一歩となる」といっている。