カビの菌糸が伸び続ける仕組み解明―食品・医薬産業などに貢献も:筑波大学/科学技術振興機構
(2017年5月16日 発表)
筑波大学は5月16日、食品や医薬品の生産に役立つ一方、病気の原因にもなるカビの増殖の仕組みを解明したと発表した。菌糸を伸ばすときに起きる化学反応や酵素の分泌が菌糸先端部で同調して起きていることを発見、これを周期的に繰り返して菌糸が伸びていくことを明らかにした。今回の成果でカビ増殖の仕組みが制御できるようになれば、食品や農業、医学などのさまざまな新技術開発につながると期待している。
筑波大 生命環境系の竹下典男 国際テニュアトラック助教らの研究グループが解明した。カビは糸状菌とも呼ばれ、糸状の菌糸からできている。この菌糸の先端を伸ばし続けることで成長、その際にさまざまな酵素を出して有機物を分解するため発酵・醸造による医薬品・食品の生産に利用されているほか、土壌中の有機物分解にも欠かせず生態系の物質循環にも重要な役割を果たしている。
研究グループは今回、菌糸細胞が伸びるのに必要な細胞膜の成分やたんぱく質がどのように菌糸の先端部に供給されるかを調べた。これらの成分の輸送に関わる菌糸の組織・成分をそれぞれ蛍光色素で染色して顕微鏡で観察した。
その結果、菌糸細胞の伸長に欠かせないたんぱく質「アクチン」の重合化、酵素の分泌などが先端部で同調しており、これを繰り返すことによって細胞の伸長が周期的に起きていることがわかった。菌糸の成長にこうした周期的なリズムが生まれるメカニズムについても、細胞の機能を制御するカルシウムイオンの濃度変化との関係などについて明らかにした。研究グループは「周期的・段階的な細胞伸長は、化学・物理的な細胞内外の刺激により素早く応答し、対応することを可能にするという生物学的な意義が考えられる」とみている。
今後の展開については「カビの伸びる仕組みを理解し制御が可能となれば、醸造・発酵食品分野での品質向上、抗生物質・有用酵素生産などのバイオ産業分野での生産量の向上、バイオエネルギー分野の発展など、カビが関わるすべての分野に貢献する」と期待している。