人工光合成に使える安価な光触媒―微生物の酵素モデルに開発:筑波大学
(2017年5月19日発表)
筑波大学は5月19日、温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)を化学原料の一酸化炭素(CO)に効率よく変換できる人工光合成に成功したと発表した。微生物が持つ酵素の仕組みを真似て安価な金属「ニッケル」を用いた高性能光触媒を開発、実現した。ルテニウムなどの高価な金属を用いた従来の光触媒に代わる費用対効果の高い人工光合成技術につながると期待している。
筑波大、数理物質科学研究科の塚越悠人さん(博士前期課程2年)と数理物質系の小島隆彦教授らが、(国)産業技術総合研究所の洪達超研究員と共同で開発した。
植物は太陽光を利用して水とCO2からグルコースなど有機物を生産、太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵する。これに対し、人工光合成の研究では化学的に極めて安定した分子であるCO2を太陽光で活性化し、反応しやすいCOに変換する研究が進められている。
研究グループは今回、微生物が光エネルギーを利用してCO2をCOに変換する光合成の際に生体光触媒として用いている酵素「一酸化炭素デヒドロゲナーゼ」に注目。この酵素が働く際にその活性中心となっている分子構造をヒントに、ニッケルの周りを硫黄原子などが取り囲む分子「ニッケル錯体1」を新たに合成した。
実験では、波長450nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の青い光を照射した場合に、このニッケル錯体1が光触媒としてどのような活性を示すかを評価した。その結果、CO2が99%以上の割合で化学原料として有用なCOに変換されることが確認できた。化学反応の進みやすさから水素の発生が伴いCOへの変換効率が落ちるという従来の問題点はほとんどなかった。
また、触媒としての能力を示す指標「触媒回転数」は50時間で700回を超えた。さらに、吸収した光エネルギーをどれだけCOの生成に利用できたかを示す量子収率は1.42%で、これまでに報告されたどのニッケル錯体よりはるかに高い活性を示した。
研究グループは「今回開発したニッケル触媒をベースに、今後、量子収率や錯体としての安定性を向上させ、より高活性な錯体触媒を開発していく」としており、コストパフォーマンスに優れた人工光合成系の構築を目指す。