味を感知するセンサーの立体構造を初めて解明―味覚の仕組み明らかにする重要な一歩に:岡山大学/理化学研究所/農業・食品産業技術総合研究機構ほか
(2017年5月23日発表)
岡山大学、(国)理化学研究所、(国)農業・食品産業技術総合研究機構などは5月23日、共同で味を感知する受容体のセンサー領域の立体構造を解明することに成功したと発表した。五感の一つである味にかかわる化学物質(味物質)を「感じる」役目を果たす味覚の受容体の立体構造を解明したのは世界的にもこれが初めてという。
受容体は、特定の物質と結合することで細胞にシグナルを伝えるたんぱく質のこと。今回の研究は、口の中で味物質の感知を担う味覚受容体たんぱく質について、その主要部分であるセンサー領域が味物質と結合している状態の構造を明らかにしたもので、自然科学研究機構分子科学研究所、東北大学、大阪大学が参加して行われた。
味には、甘味、うま味、塩味、酸味、苦味の5つの基本の味があり、それぞれの味の味物質を認識するセンサーたんぱく質である味覚受容体が存在する。
味覚は、口の中に持っているそのセンサーたんぱく質の味覚受容体が、砂糖や酸など食物に含まれている味物質を感知することで始まる。ヒトの場合、それらの感知は「T1r1」、「T1r2」、「T1r3」という3種のたんぱく質が担っており、口腔内に露出しているリガンド結合領域と呼ばれている部分で味物質の感知が行われている。
しかし、味物質のセンサー領域であるT1rリガンド結合領域が、どのように味物質を認識しているのかは、これまで全く分かっていなかった。
共同研究チームは、さまざまなアミノ酸が結合した状態でのT1r2-T1r3リガンド結合領域ヘテロ二量体(二種類のたんぱく質が会合して存在する状態)について播磨科学公園都市(兵庫県)にある大型放射光施設SPring-8を使ってX線結晶構造解析を行い立体構造を解明することに成功した。
今回の研究成果は、味覚の最初の反応である受容体と味物質との相互作用を原子レベルで初めて捉えたもので、味覚受容の仕組みを詳しく理解する上での重要な一歩になると期待される。
研究チームは「今回の構造をもとにヒトの受容体の立体構造モデルをより正確に予測することが可能になり、ヒトの味覚の理解や新しい味物質の開発などに活用することが可能になる」といっている。