分光法を取り入れた新発想の電子顕微鏡技術を開発―隠れた物性情報を引き出すことに成功:物質・材料研究機構/東京理科大学
(2017年5月26日発表)
(国)物質・材料研究機構と東京理科大学、中国科学技術大学の研究者らから成る共同研究グループは5月26日、基板から飛び出す二次電子をナノ薄膜観察の電子源として利用する分光顕微鏡技術を開発したと発表した。電子のエネルギーがゼロに近い領域から高エネルギーまでの広いエネルギー範囲でナノ薄膜を一度に計測でき、二次電子の信号に隠れた物性情報を引き出せたという。
光の波長を連続的に変えて物質を観察することを分光というが、これを電子顕微鏡に応用しようとすると、電子のエネルギーを連続的に迅速に変化させることが容易ではなく、特に低エネルギー域を含むダイナミックレンジでの分光はこれまで困難だった。
研究グループは今回、入射電子ビームを基板物質に照射した際に生じる広いエネルギー分布を持つ二次電子を、いわゆる白色(いろいろなエネルギーの電子が混ざった状態)の電子ビーム源として利用する、新発想の分光顕微鏡技術を開発した。
その実現には、二次電子に含まれるバックグラウンド信号を完全に除去する必要があるが、研究グループは、天文学で望遠鏡の微弱信号の精密検知に利用されている4点計測法を顕微鏡に応用し、極微弱な物性信号をとらえることに成功した。
実験では、膜厚1~2原子層の炭素原子薄膜グラフェンの電子透過率を、ゼロに近いエネルギー領域から600電子ボルトまでの広い範囲で一度に計測、その実測値が理論値とよく一致することを確認した。
二次電子の信号に隠れていたナノ薄膜の電子透過率という物性情報を引き出せたことは、これが初めての報告例という。
今回の成果は汎用の電子顕微鏡装置の改造を伴わずに利用でき、今後産業利用などへの展開が期待できるとしている。