放射性セシウムを吸収しにくい水稲を開発:農業・食品産業技術総合研究機構/岩手生物工学研究センター
(2017年5月31日発表)
(国)農業・食品産業技術総合研究機構は5月31日、イネに放射線を照射して突然変異させ、原子力発電所事故による放射性セシウムが吸収されにくい「低吸収コシヒカリ」(Cs低吸収コシヒカリ)の開発に成功したと発表した。玄米の測定では通常のコシヒカリと比べてセシウム濃度が半減しているのを確認した。
6年前の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故では、放射性セシウムの拡散が被害地区の農産物に多大なダメージを与えた。これまでの対策では土壌の除染や、カリ肥料を増量する対策が採られてきた。いずれも効果は出ているが、農家からはもっと手間やコストのかからない長期的な対策技術を望む声が出ていた。
農研機構は3年前に、有害物質のカドミウムをほとんど吸収しない水稲品種の開発に成功している。これは粒子加速器を使い、水素イオンなどを高速で種子や培養組織に照射する方法で、今回もこの加速器法を応用した。
カリ肥料がセシウム吸収を抑えるのは、イネの根の部分であることが分かっていた。その遺伝子を調べたところ、塩害を受けたイネが根からナトリウムを排除して自分を守る役割の遺伝子(OsSOS2)だった。
この遺伝子に加速器でイオンを照射し、変異させた。するとセシウムを取り込む輸送路の働きが抑えられ、セシウムが吸収されにくくなったと考えられる。(公財)岩手生物工学研究センターと共同で特定した。
Cs低吸収コシヒカリは、通常のコシヒカリと同じ方法で栽培でき、収量も食味もコシヒカリとほぼ同等だった。コメの放射性セシウム濃度を長期にわたって低減させる技術として期待されている。