農業から出る温室効果ガス抑制で提言―N2Oの発生抑える品種を育成する研究の加速訴える:国際農林水産業研究センター
(2017年5月31日発表)
(国)国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は5月31日、農地からの温室効果ガスN2O(一酸化二窒素)の発生を抑える力を持つ作物品種の研究開発を加速させる必要がある、とする提言を発表した。環境に優しい農業を実現するため、提言は深刻さが増している農業由来のN2O低減を海外の国際農業研究機関や大学と共に訴えている。
窒素肥料の多量投入は、穀物の大量増産を可能にした。1940年代から60年代にかけて世界で起こった「緑の革命」は、高収量品種の導入と化学肥料の大量投入によってもたらされた。
しかし、窒素肥料の投入量は、その後さらに増えたため現在では多くの地域で過剰状態となっており、環境負荷の増大が深刻な問題となっている。
畑作物では、一般に、投入した窒素肥料のうち、植物体に吸収されるのは3分の1程度で、残りは、N2Oなどの気体となって失われたり、地下水などに入ったりして環境を汚染している。
統計によると、地球の温暖化に繋がる温室効果ガスの約24%は農業活動から生じている。
特にN2Oは、CO2(二酸化炭素)の約300倍もの温室効果を持ち、人為的発生源のうち約5割のN2Oは農業活動に由来するといわれている。
このため、硝化抑制剤入り肥料や被覆肥料などのN2O発生抑制技術がこれまでに開発されているが、コスト高になるなどからほとんど普及していない。
JIRCASの今回の提言は、そうした状況をふまえN2Oの発生を抑制する力を持った作物品種の育成研究を加速すべきだと訴えている。
JIRCASは、その実現に向け「生物的硝化抑制(BNI)」という植物が根から分泌する物質を利用して土壌中の硝化(アンモニアが酸化されて硝酸塩に変わる現象)を抑制する技術の研究に取り組み、これまでに農作物が自身の根から分泌したブラキアラクトン、ソルゴレオンといった物質によって効率的にN2Oの発生が抑制され、併せて生産性が上がることを見つけている。
この成果は、国内外から注目され、JIRCASは国際農業研究機関と共同で現在、この機能を持ったソルガム(モロコシ)、小麦、熱帯牧草の実現に取り組んでいる。
JIRCASは「品種改良で、温室効果ガス発生抑制・窒素肥料節約の一挙両得が可能」と強調している。