地球温暖化による労働者の熱中症予防のコストを推計―「パリ協定」達成できれば大幅な削減が可能に:国立環境研究所/筑波大学
(2017年6月13日発表)
(国)国立環境研究所と筑波大学の研究チームは6月13日、共同で地球温暖化によって必要となる労働者の熱中症予防の経済的コストを推計し論文として発表した。
熱中症は、暑い環境に身体が十分に対応できなくなって体温の上昇や、めまい、けいれん、頭痛などさまざまな症状を起こす病気のこと。
地球温暖化による気温の上昇で働いている労働者は、より強い熱ストレスに曝されることになる。そのため、国際標準化機構(ISO)や各国の機関は、熱中症などのリスクを低減しようと、暑さの度合いと作業強度に応じて、労働時間中に休憩をとるようにすることを推奨している。
しかし、気温の上昇が進むと、必要となる休憩時間が増えることになるため、労働可能時間が短縮され、経済的な生産性が低下する可能性がこれまでの研究で指摘されている。
研究チームは、気候モデルの結果と経済モデルとを組み合わせることで、地球温暖化によって追加的に必要となる労働者の熱中症予防のための経済的コストを複数の将来シナリオの下で推計し比較した。
その結果、地球温暖化が最も進むシナリオの下で何も対策を取らなかったとすると、21世紀の終わりには年間の労働者の熱中症予防のための追加的な経済的コストが世界全体のGDP(国内総生産)の2.6~4.0%にも達することが判明した。
一方、地球温暖化対策についての国際的な枠組み「パリ協定」で掲げている目標の「気温の上昇を産業革命以前と比較して2℃未満に抑える」ことが達成できれば、その損失は5分の1以下の0.5%以下にできるとしている。
ただ、この研究は、将来にわたって労働者の働き方が変わらないという仮定のもとで推計を行っている。
このため、研究グループは、今後さらに労働者の働き方を変える対策をとることによる効果の定量化に取り組んでいくことにしている。