電磁石を使わずスピン波の伝搬に成功―省エネ型のマグノントランジスタの開発に道:慶應義塾大学/物質・材料研究機構
(2017年6月30日発表)
慶應義塾大学と(国)物質・材料研究機構の研究グループは6月30日、電子の代わりにスピン波で論理演算する「マグノントランジスタ」の実現を促す新技術を開発したと発表した。電磁石を使わずにスピン波を伝播させることに成功したもので、課題となっていたスピン波論理演算素子の集積化に一歩近づく成果という。
現在のCPU(中央演算装置)を構成している論理演算素子は、電子の電気的性質である電流を利用してオン・オフの演算をしているが、電気抵抗に伴う発熱が集積化のネックになり始めており、代わって、電子の磁気的性質であるスピンを使う研究が精力的に進められている。
スピンの集団運動であるスピン波(マグノン)を演算に用いるマグノントランジスタの開発はその一つだが、これまではマグノンの発生などに大電流を要するなど総合的にはエネルギー効率が良い手段とは言えず、またスピン波の伝播に電磁石を使うため素子の集積化が困難といった問題があった。
研究グループは今回、極めて質の高い鉄製の磁性単結晶を用い、磁化の向き易い結晶軸と向きにくい結晶軸を活用することで試料全体に磁場を加えない状態で、スピン波信号を伝えることに成功した。これは電磁石を使わずにスピン波で論理演算が可能なことを示している。
また、試料全体に磁場を加えたのでは複数の素子を個別には制御できないが、今回の成果により、スピン波素子を集積化してトランジスタを構築する手法が見出されたという。