[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

ガラスの基本単位の分子構造解明―高性能ケイ素材料開発に貢献:産業技術総合研究所/新エネルギー・産業技術総合開発機構/日本原子力研究開発機構

(2017年7月27日発表)

 (国)産業技術総合研究所は727日、ガラスの基本単位である分子「オルトケイ酸」の結晶化に成功、その詳細な立体構造を解明したと発表した。19世紀の発見以来、詳しい構造が解明できたのは初めて。同分子は乾燥剤に使われるシリカなど無機ケイ素化合物のほか、広く応用されているシリコーンなどの有機ケイ素材料の基本単位にもなっており、新たな高機能・高性能ケイ素材料の開発に役立つと期待している。

 立体構造の解明には、(国)産業技術総合研究所、(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構、(国)日本原子力研究開発機構など4機関が協力した。

 オルトケイ酸はケイ素に4つの水酸基(OH)が結合した分子。四塩化ケイ素などを水と反応させる加水分解の際に短時間だけ発生、すぐ次の反応を起こす極めて不安定な物質で、その詳細な構造は未解明だった。

 産総研はオルトケイ酸が不安定なのは加水分解の際の水が影響していると判断、テトラベンジルオキシシランと呼ばれる物質を原料に、水を使わずにオルトケイ酸を合成する反応を見出した。その結果、収率96%で安定したオルトケイ酸を得ることができ、結晶化にも成功した。

 そこでX線や中性子線を利用して結晶構造を解析、オルトケイ酸が正四面体構造を持ち、中央にあるケイ素と周囲の4つの水酸基の立体的な位置関係を解明。ケイ素と酸素の結合部分の平均長は0.16222nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)であることなど、詳細な分子構造を明らかにした。また、同様の反応でオルトケイ酸が複数結合したオリゴマー(2量体、環状3量体、環状4量体)も安定的に合成、それらの構造も明らかにした。

 オルトケイ酸はイネのもみ殻や茎を丈夫にしているほか、動物の骨や皮膚、ツメなどの体組織の原料にもなっている。そのため、これまでにない高機能のケイ素材料を実現したり、動植物がオルトケイ酸を取り込むメカニズムを解明するために、分子構造の詳細な解明が求められていた。

 研究グループは、今回の研究で「オルトケイ酸とそのオリゴマーを安定的に合成できるようになった」として、今後、高機能・高性能シリコーン材料の開発や革新的なシリカ製造プロセスの開発が期待できるとしている。