雲を作る海のにおい物質放出量を実測―気候モデルの高度化に一役:筑波大学/国立環境研究所ほか
(2017年7月24日発表)
筑波大学や(国)国立環境研究所などの研究グループは7月24日、海から大気中に放出されて雲をつくる原因になっている物質「硫化ジメチル」の放出量を太平洋の広い海域で初めて実測することに成功したと発表した。地球温暖化や異常気象などを解明するのに欠かせない気候システムモデルの高度化に役立つ。
研究グループには、筑波大の大森裕子助教、国環研の谷本浩志室長らと岡山大学、北海道大学、東京大学の研究者らが加わった。
硫化ジメチルは海のプランクトンがつくる物質で、海辺に漂う磯の匂い物質としても知られる。大気中に放出されると雲をつくる働きがあり、その放出量を正確に評価することは地球の気候システムを理解するのに極めて重要とされている。しかし、これまでは実測による正確な評価は難しかった。
今回、研究グループは海面上5cm~14mの硫化ジメチル濃度変化と気象データから放出量を実測する傾度法など既存の分析手法を組み合わせた「PTR-MS/GF法」と呼ぶ観測システムを世界で初めて構築。学術研究船「白鳳丸」で太平洋の亜熱帯から亜寒帯までの海域で硫化ジメチル放出量を実測した。
この結果、風速が毎秒0.5~11mという幅広い条件下でデータが得られ、放出量は風速が強いほど増加する傾向があることなどがわかった。また、プランクトンなど海洋微生物の活動が活発な海域では放出量が顕著に高かった。
従来、海面からの放出量は海表面で測定した硫化ジメチル濃度に特殊な係数をかけて推定していた。計算で放出量が簡単に求められる一方、研究者によって係数をどう見積もるかが異なり、放出量にもばらつきがあった。
今回の実測では、従来の計算法で使われてきた係数が概ね有効であることがわかったという。このため研究グループは、計算による放出量評価と今回の観測システムによる実測を重ねることで海洋からの放出量評価の精度が向上し、気候システムモデルの精緻化につながると期待している。