ネムリユスリカの細胞、外来の酵素を乾燥から完全に保護―冷蔵・冷凍せずに生体物資の常温長期保存が可能に:東京農工大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか
(2017年7月26日発表)
東京農工大学と(国)農業・食品産業技術総合研究機構、(国)理化学研究所の研究グループは7月26日、昆虫ネムリユスリカの細胞が、外部から人為的に導入した酵素を乾燥からほぼ完全に保護できることを実証したと発表した。この研究成果を応用すると、これまで冷蔵・冷凍での保存が必要とされていた酵素や抗体などを、常温のまま乾燥させて長期間保存することが可能になるという。
ネムリユスリカはカラカラに乾燥しても死なず、無代謝休眠状態となり、水があると元通りに蘇生する昆虫。アフリカの半乾燥地帯に生息している。
この昆虫から取り出して作製した培養細胞も乾燥に対して耐性を示すことから、ネムリユスリカの細胞の蘇生に関わっている生体物質は、カラカラな乾燥下でも活性が保護されていることになる。
しかし、この細胞に外部から人為的に導入した酵素などの生体物質が、乾燥条件下で同様に保護されるかどうかは不明だった。
研究グループは、ネムリユスリカ細胞にもともと無く、かつ、乾燥で壊れるルシフェラーゼという酵素を実験対象に選び、この酵素を作り出すネムリユスリカ細胞(Pv11-Luc)を作製し、産出される酵素の活性が乾燥下でどう変化するかを調べた。
ルシフェラーゼはルシフェリンという物質を酸化して発光させる機能があるので、発光の様子を見ればルシフェラーゼの活性を評価できる。
実験では、Pv11-Luc細胞をトレハロース溶液に浸してからカラカラに脱水してガラス状態にし、乾燥剤を入れた箱の中に25℃で1年以上置いた。これに水を加えたところ細胞は元の状態に戻って蘇生し、ルシフェラーゼの活性も検出された。ルシフェラーゼ酵素のこの活性は生存細胞数に依存していたという。
これは、ネムリユスリカ培養細胞が生き延びていれば、ルシフェラーゼもほぼ完全に保護されることを示している。
今回の成果を活用すると、冷蔵・冷凍保存を要していた酵素などの生体物質のエネルギーフリーな長期保存が期待でき、電力供給が乏しい地域や災害地域、医療現場などへの安定的な運搬・貯蔵に役立ちそうだという。