[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

リチウム空気電池に新電解液―効率・寿命を大幅改善:物質・材料研究機構

(2017年7月31日発表)

 (国)物質・材料研究機構は731日、電気自動車や電子機器に使われているリチウムイオン電池を超える「究極の二次電池」として期待されるリチウム空気電池の実用化に道をひらく新技術を開発したと発表した。エネルギー効率と寿命を大幅に改善できる新電解液を開発、実用化の壁とされていた問題点を一気に解決できる見通しを得た。今後、新電解液の働きを詳しく解明、早期に実用化したいとしている。

 リチウム空気電池は正極と負極の間にセパレーターを挟み、電解液を入れただけの簡単な構造。正極に空気、負極にリチウム金属を用いる。放電時には負極からリチウムが溶け出し正極で空気中の酸素と反応して過酸化リチウム(Li2O2)を析出、充電時にはこの反対の反応を起こすことで繰り返し充放電できる。

 新電解液は、リチウム空気電池がこれまで抱えていた、①放電時に使える電圧が充電時に必要な電圧に比べて小さい(低エネルギー効率)、②充電時に負極に過酸化リチウムが樹枝状に析出するためリチウム金属の寿命が短い、という2つの問題点を同時に解決できるという。

 開発した新電解液は、臭化リチウム(LiBr)と硝酸リチウム(LiNO3)を含む混合液。その結果、①充電時に正極にかかる過剰電圧を従来の1.6V(ボルト)以上から約0.6Vにまで半減、充電電圧は約3.5Vで済みエネルギー効率が従来の60%程度から77%に上昇、②負極側に樹脂状のリチウム析出が全く起こらず、従来20回以下だった充放電可能回数が50回以上にまで大幅に向上した。

 寿命が延びたことについて、同機構は「リチウム金属の表面が極薄の酸化リチウムに覆われ、一様なリチウム金属の析出が起きているのではないか」と推測。その理由として、新電解液の硝酸リチウムと臭化リチウムの相乗効果によるものとみている。

 二次電池は繰り返し充放電可能なため、太陽電池による電力の家庭用貯蔵装置や電気自動車向け電源として今後急速に需要が拡大するとみられている。そのため単位重量当たりの貯蔵可能電力量(エネルギー密度)がリチウムイオン電池の5~10倍と理論上最も高いリチウム空気電池の実用化が期待されていた。