フラーレン分子を内包した共鳴トンネルトランジスタ開発―次世代トランジスタへの展開の可能性を開く:物質・材料研究機構
(2017年8月1日発表)
(国)物質・材料研究機構は8月1日、サッカーボール状のフラーレン分子を用いて縦型の共鳴トンネルトランジスタをつくり、動作の実証に成功したと発表した。次世代のトランジスタに求められる微細化、高集積化、低消費電力化、高速化を同時に実現する分子デバイスの開発につながる成果という。
作製した新タイプのトランジスタは、炭素原子60個が球状に結び付いたC60(フラーレン分子)を、電子を3次元的に閉じ込める容器ともいえる「量子ドット」として用いたもの。研究グループはこれまでの研究で、分子を量子ドットとして用いると、量子ドットが埋め込まれた絶縁体間に共鳴トンネル電流が流れることを確認している
今回、フラーレン分子を個々孤立した状態にして、絶縁膜である酸化アルミニウムとシリコン酸化膜の間に埋め込み、この層の両側にゲート電圧を印加するゲート電極を設け、全体の下面にソース電極にあたるシリコン基板、上面にドレイン電極を設けた素子をつくった。
作製に当たっては既存のリソグラフィー技術を用い、全体を幅50nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の細線に微細加工した。
この分子トランジスタは、ソース・ドレイン電極を縦方向に配置した縦型トランジスタ構造なので、素子の高集積化が期待できる。電子の量子トンネル効果を利用したドレイン電流制御が可能で、低消費電力化、高速スイッチングにもつながる。また、既存のリソグラフィー技術による微細加工ができ、高集積化に適している、などの特長がある。
絶対温度20度(20K)の測定温度で作動実験をしたところ、ゲート電圧を印加することによりドレイン電流が変調されるなど、分子トランジスタとして機能していることが確認された。
新トランジスタは分子設計に基づいた多値制御の実現も期待でき、シリコントランジスタの限界を超える次世代ナノトランジスタとしての展開が期待できるという。