ニュートリノでCP対称性が破れている可能性高まる―T2K実験の解析の結果、破れている確率は95%に:T2K実験国際共同研究グループ/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2017年8月4日発表)
物質と反物質の存在比の謎に迫る「CP対称性の破れ」の究明に取り組んでいるT2K実験国際共同研究グループ(T2Kコラボレーション)は8月4日、ニュートリノにおいてCP対称性が破れている可能性はこれまでより高まり、95%となった、と発表した。引き続き実験・観測・解析の向上を図り、さらに高い信頼度での検証を目指すという。
宇宙の始まりに物質と反物質は同数生成されたと考えられているが、現在の宇宙に反物質はほとんど存在していない。この謎の原因は、物質と反物質の間に何らかの性質の違いがあること、つまり物質・反物質を構成している素粒子の間でCP対称性が破れていることが重要なカギを握っていると考えられ、その解明が大きな課題になっている。
物質を構成する素粒子のうちのクォークについてはCP対称性の破れが見つかり、そのメカニズムが理論的に解明されているが、ニュートリノを含む残りの素粒子レプトンについてはまだ解明されていない。
この問題の解明に取り組んでいるのがT2K実験。茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCからニュートリノビームを放出し、これを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるニュートリノ検出施設「スーパーカミオカンデ」でキャッチし、飛行している間に別の種類のニュートリノに変わる、いわゆるニュートリノ振動という現象を観測している。
ニュートリノでCP対称性が破れているとすれば、例えばミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに変わる確率と、反物質である反ミュー型ニュートリノが反電子型ニュートリノに変わる確率には違いが出ると考えられている。
2010年から2016年にかけて取得したデータを2016年に解析した結果では、ニュートリノと反ニュートリノに違いがある確率、すなわちCP対称性が破れている可能性は90%の信頼性で示されたが、データ量を実質約2倍に増やしたその後の検証結果では、違いのある確率は95%に高まり、CP対称性の破れが存在する可能性がより明瞭になったという。
今後、ニュートリノビームをつくる陽子ビームの強度をさらに高め、データ量を現在の約9倍に増やし、ニュートリノにおけるCP対称性の破れを確率99.7%の信頼度で検証したいとしている。