細胞分裂時の染色体整列異常―カルシウムイオン欠乏との関係解明:産業技術総合研究所
(2017年8月7日発表)
(国)産業技術総合研究所は8月7日、生命活動の基本である細胞の分裂時にカルシウムイオンが欠乏すると染色体異常や細胞のがん化につながる染色体の整列異常が生じることを発見したと発表した。整列異常は細胞分裂時に染色体が正しく配置されない現象で、分裂後の細胞にDNAが正しく分配されなくなる。細胞のがん化などを防ぐための新たな手がかりになると期待している。
生物は細胞を分裂することで、自分の身体を維持し子孫を残す。細胞分裂時には親の細胞と同じ遺伝情報を持つDNAが複製される。このDNAは折りたたまれた構造を持つ染色体として二つの細胞に引き継がれ、DNAが安全・均等に分配されている。ところが、DNAがどのようにして染色体という構造になるかはこれまで明らかでなかった。
産総研は、細胞内のカルシウムイオン濃度が減少すると細胞分裂時に染色体の構造が膨らんだり異常な整列の仕方をしたりすることに注目。ヒトの培養細胞に特殊な薬剤を用いて分裂中期の状態で停止させ、細胞内のカルシウムイオンを減少させるなどして原因解明を試みた。
その結果、細胞分裂時に染色体が適正な動き方をするための足場となる構造「動原体」の一部がカルシウムイオン濃度の低下によって消失、染色体の位置が正しく制御されずに整列異常が引き起こされることが明らかになった。消失する動原体の一部はCENP-Fと呼ばれるたんぱく質であることもわかった。
このため、産総研は「カルシウムイオンが染色体の動原体たんぱく質であるCENP-Fの局在を制御する因子であることが明らかになった」として、今後、細胞のがん化などを防ぐ新たな手がかりを得たいとしている。